ミーニョの豚の血粥
2010年 03月 04日
今年のヴァレンタインデーも誰とも約束がないので、ひとり北部ミーニョ地方のブラガの格安のホテルに一泊し、世界遺産の町ギマランイスに出かけた。ブラガには美味しい鴨ステーキフォアグラ添えのあるお気に入りのレストランがあるのだが、今年の二月十四日はあいにく日曜日で休業、しかも小さな町なので日曜日に開けるレストランも限られている。しかし、私は抜かりなく下調べをし、駅前のビジネスホテルでスーパーで買ったサンドイッチを一人で頬張る様な惨めなヴァレンタインデーは回避できた(?) ひと気のない日曜の夜の地方都市の、小さな広場に灯ったそのレストランの看板は、夜の暗い海をただよう船がはるか沖に見出す灯台の光のように、私を暖かく勇気付けた。入るとそこはやはり楽しそうに語らう家族連れや、幸せそうなカップルであらかた埋まり、こんな夜に女一人で食べに来る客はポルトガル人であれ外国人であれ、私ぐらいであった。
色気より食い気の私は、ひるむことなく折角ここまで来たのだから、北の名物を食べなくてはと意気込んでメニューを開くと、そこにもまた「ヴァレンタインデー 特別メニュー」なんてものがある。けっ。で、ラブラブのカップルはどんなロマンチックなものを食べているのかというと、てんこ盛りの「コジード・ア・ポルトゲーザ」とかワラジみたいなステーキに小山のフライドポテトである。そう、ここは超ベタなポルトガル料理店なのだ。しかも田舎はリスボンよりも二~三割盛りがいい。見つめあう男女の体格も立派である。
私はミーニョ地方の郷土料理「ロジョンイス、パパス・デ・サラブーリョ添え」を選んだ。ロジョンイスはワインに漬け込んだ豚肉やレバーをオリーブオイルで揚げたもので、レバーが好きではない私は単体ではまず頼まないものであるが、付け合せのパパス・デ・サラブーリョにいたく惹かれたのだ。パパス・デ・サラブーリョは豚の血を使ったどろどろのお粥みたいなものである。
そう書いただけで眉をひそめる人も多いことだろう。しかし、これをどうしても食べてみたくさせる本がある。アントニオ・タブッキの「レクイエム」という小説だ。主人公が詩人のフェルナンド・ペッソーアに導かれて白昼夢のようなリスボンをあちこち歩き回る話だ。その中に、気持ち悪くも旨そうにサラブーリョの作り方を詳しく説明している部分があり、非常に興味がそそられた。この小説を読んで以来サラブーリョというものを一度食べてみたいものだと願っていた。しかし、リスボンでサラブーリョをメニューに出している店はほとんどない。十年位前、コインブラ大学でサマーコースを受けていた時、町の食堂の昼定食にサラブーリョがあるのを発見したが、既に売り切れていた。その時一緒にいたのは、タブッキの作品からペッソーアに興味を持ち、ポルトガル語の翻訳家になった知人であった。二人は同時に「サラブーリョ!」と叫び、同時に落胆したのだった。
数年後、別の友人とミーニョの奥にあるポザーダ・サンタ・マリア・ド・ボウロに泊まった。中世の修道院をポルトガル屈指の建築家ソウト・モウラが手を加えた素晴らしいホテルで、大きな煙突のある昔の厨房を改装したダイニングで夕食をとった。そこで遂にパパス・デ・サラブーリョを食することができた。外見は粘りのある汁粉の様でどす黒い色をしている。怪我をして血をなめた時のあの血生臭さは断じてないが、チョリソに使う独特の香辛料(クミンかパプリカ)の香りが感じられる濃厚なスープである。しかし食べてみると味は以外とマイルドであった。それ以降はしばらくお目にかかることのなかった幻のパパス・デ・サラブーリョだが、時を経て再びかの地で会うことになった。
まずメインのロジョンイスが登場。ごろんごろんと切った豚肉とワインに漬けたレバーがどお~んとやって来た。見た途端げっぷが出そうなすごい量だ。
そして目的のパパス・デ・サラブーリョが土鍋の中でぐつぐつと音を立てながらやって来た。この店のパパスはいかにも血を使ったような暗褐色ではなく、トウモロコシのポタージュのような淡い色あいである。かなり粘りのある粥状で、スプーンですくうと、繊維状に煮崩れた肉がたっぷり入っているのがわかる。舌触りはあくまでどろ~りと濃厚で滑らか。
別皿に取り分け上品に盛り付けようと試みたが、逆にこの食べ物をご存知のない方々にとっては、よからぬ連想をさせてしまいそうなヤバイ画像となってしまった。食欲を無くした方にはお詫びしたい。でもサラブーリョの名誉のために言っておこう。料理は見かけじゃない、味なのだと。
レバーが苦手なのは、あの歯ざわりが嫌なんです。でもリンゴのシャリシャリが嫌いという人もいるし、イクラやタラコのプチプチに鳥肌という人もいるし、理屈や味じゃないんですよね。
ポルトガル人は年中恋人の日みたいものなので、ヴァレンタインデーの経済効果は特にありません。
ポルトガル人の嗜好を考えると、クタクタの茹で野菜とか、青汁に近いパレガードとか、野菜の「シャキシャキ感」が苦手なのかと思うことしばしば。
チョコを持った聖ヴァレンタインVSキリストを抱いた聖アントニオ・・・やっぱり地元の聖人が勝つかなww
肉屋さんに注文すれば取っててくれるんじゃない?
どうしても見つからない場合は自給する(牛乳瓶一本くらいは大丈夫)
またはブラッドソーセージを使ってみるとか。
牛乳瓶一本分でいいから。
家の並びの肉屋で血を採っててくれるかな?とも思ったのだが、
肉屋に到着の段階で、もう血抜きはしてあるような気がします。
屠殺場に行かないと。
ところで、昨日リスボンでは初めてChanfanaのメニューを出してる店を見ました。
タコのテンプラを定期的に出してる店もあるみたいだし、このメニューも
リスボンで食べられる日も近いかも。