カステロ・デ・ヴィーデの復活祭
2012年 04月 12日
カステロ・デ・ヴィーデは昔スペインから逃げてきたユダヤ人コミュニティがあったことでも知られ、その伝統の名残があちこちに見られる。何年か前にこの町に泊まった晩はたまたま復活祭の前の「ハレルヤの土曜日」と呼ばれる日で、真夜中に村人がカウベルをカランコロンジャランジャランと鳴らしながら通りを練り歩く「ショカリャーダ」という行事に遭遇した。人々は「神の子羊」となって鈴を鳴らしながらぞろぞろ歩き、クリスチャンはキリスト復活を喜び、ユダヤ人は祖先のエジプト脱出を偲び、誰もが春の到来を祝い、家族の再会や健康を神に感謝しつつ、しめたての羊の料理やお菓子をたらふく食べる日曜を迎えるのである。
今度は自分も鈴を思いっきり鳴らしてストレス解消しようかと思ったが、聖金曜日と復活祭に挟まれた土曜日に空室のある宿泊施設を当日に予約するのは無理があり、値段の下がる連休最後の日曜と翌日の2晩を違う宿に泊まることにした。
カステロ・デ・ヴィーデは波のようにうねる山の斜面に家がへばりついたような村で、最も高い場所には城があり、そこから見る景色は、山の緑、赤の屋根瓦、白い漆喰の対比が息を呑むほど美しい。村の中を歩くと、中世以来の不揃いの石を敷き詰めた狭い坂道を挟んで、白い小さな家が肩を寄せ合っている。玄関先の植木鉢に植えられた、あるいは敷石と壁の間のわずかな隙間にこぼれ落ちた種が咲かせた花々は長年の隣人にも見知らぬ旅人にも微笑みかける。
この日は異邦人の私も伝統に従って羊を食べると心に決めていた。カステロ・デ・ヴィーデの村役場が作った2012年復活祭プログラムの中に、レストランリストと復活祭期間の特別メニューが記されている。聞いたことのない料理ばかりだ。15軒のリストアップされた全ての店が特別メニューの筆頭に挙げている「サラパテル」が気になった。中央広場に面した村で最も有名なレストランで、サラパテルとはどういうものか尋ねると、羊の内臓を使ったスープだと言う。血も使うらしい。ヤツメウナギリゾットくらい見た目の悪い料理と想像できるが、珍しいものなので食べてみることにした。
給仕は薄くスライスしたパン2枚にオレンジの輪切り、ミントの葉を小奇麗にあしらった皿を持ってきた。その上からせっかくの上品な配置をすっかり覆い隠すように、肉の細切れのごろごろと入った黒っぽいスープを注いだ。パンやオレンジやミントの葉はスープの上に乗せたほうが食欲が増すと思われる。これは肋骨が付いている、これはレバーだ、これは腎臓かもしれない、スポンジ状に細かく穴の空いたこれは…と分析してしまい、総合的な味はうまいともなんとも感想は湧いてこなかった。翌日に泊まったゲストハウスの女主人によると、このスープはその昔ユダヤ人がいけにえに捧げた羊を、余すことなく食べるように作られたものと言うことだ。
メインディッシュは羊のシチューか山羊のローストか迷ったが、羊が重なるのもつまらないと思い、山羊のローストにした。これもいまひとつであった。今年は雨が少なく山羊も痩せていたのだろうか、骨ばっかりで実際に食べるところは見た目の25~30%だった。また付け合せはフライドポテトではなく肉と一緒にオーブンで焼いた皮付きの小ジャガイモだったら数倍良かった。皿にはポテトから落ちた揚げ油が溜まっていた。フライドポテトはどんなに美味しくとも店の格式を下げてしまうものである。
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