巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ監督死す
2015年 04月 03日
オリヴェイラ監督の独特のスタイルは、国内外の評論家に高く評価されている。日本でも「芸術映画」専門の独立系映画館で特集されたり、NHKの衛星放送でも放映されたので、インテリな映画好きの間では知名度は高いだろう。では、ポルトガル国内での人気はどうだったのだろうか。
新作が発表されるとリスボンの1、2の映画館で長くて3週間上映される程度で、とても大ヒットとは言えない。ポルトガル人でさえ、オリヴェイラ監督の映画は退屈だ、という人が多い。私も何本か見たが、動きの極端に少ない画面で主人公のモノローグが延々10分も続く演出に、イライラするか爆睡するかのどちらかだった。リアリズムとはちょっと違う様式美というか、演劇的な要素が多分にあり、また文学作品や史実などを独自に解釈した作品が多いので、教養のない私にはさっぱり面白くないのだった。それでも映像の美しさは抜群だ。
しかし一般大衆受けするような「解りやすい」映画もある。初期の「ドウロ河」「アニキ・ボボ」などは、イタリアのネオ・リアリズモの影響を受け、ポルトの庶民の生活を力強く、愛情を込めて描いている。
オリヴェイラ監督はポルトのブルジョアの家庭に生まれ、若い頃はスポーツ万能で、カーレースに出たり飛行機を操縦したり、棒高跳びの選手でもあった。俳優としてポルトガルの喜劇映画にも出演している。ヴィム・ヴェンダース監督の「リスボン・ストーリー」ではチャップリンの真似をして軽やかな足さばきを披露しているが、この時すでに80歳を超えている。
リスボンのアルファマ地区を舞台にした「階段通りの人々」では、しみったれた、しかしどこか憎めない小市民の姿を描く。リアルなポルトガル人の生活や内面をバラしてしまったこの作品は、ある人には不快に感じたようだ。これも解りやすい作品。
一般的な商業映画にはない、ゆったりしたテンポ、暗示的な描写を多用した映像美、詩を読むようなセリフの言い回しなど、独特の世界を築き上げたオリヴェイラ監督。その作品はポルトガルのみならず、世界の映画芸術における宝となるだろう。