バカリャウ(鱈)料理-1 鱈と皆さん
2007年 07月 18日
ポルトガルで言う鱈とは日本でよく見る生や薄塩の切り身がプラスチックトレーに3枚入っているようなものとは全く違う。スーパーや専門店には縦横50cmほどの洋凧の形に開かれた大きな干し鱈が何枚も重ねられて強烈な匂いを放っている。表面には塩が吹いている。これをギロチンでバチンバチンとカットし、ビニール袋に入れて量りにかけて値段をつける。スーパーにはあらかじめカットしてあるものや、細く裂いたものもある。
干鱈は塩抜きしないと食べられない。1日以上、水を替えながら干鱈を戻す。この戻し加減がなかなか難しいようだ。塩を抜きすぎても残しすぎてもいけない。アルファマ地区の小さな食料品店では昔ながらにたらいに水を張って鱈をもどしながら売っている。
このような手間を経てようやく鱈は調理されるが、代表的なものはバカリャウ・コジード。私が初めてレストランで自分で注文して食べたのもこれだった。バカリャウというのは鱈で、コジードというのは煮たという意味だ。つまり、鱈の煮物である。切り身を上品な薄味のだしで煮て、ゆずとかハジカミとか香りのいいつまが添えられて、きれいに形を整えた野菜や、食べられないけど花や葉っぱが添えられて…という日本の煮魚を想像すると、どーんとパンチを食らう。これは言語や文化を共有するブラジル人にとってもそうらしい。
日系ブラジル人の知人はポルトガルのレストランでバカリャウ・コジード・コン・トードスという料理を注文した。コン・トードスとはみんな一緒という意味である。どんなすごい料理が出てくるかと期待しながら待つと、ただ水で茹でただけの大きな鱈の切り身と茹で野菜が出てきた。不審に思った彼は店の人に「コン・トードス」とは何だと尋ねたところ、鱈と一緒のジャガイモや人参やブロッコリや卵がトードス(皆さん)だということであった。鱈と上記のつけあわせを同じ鍋にぶち込んで茹でるから「みんな一緒」であるらしい。味付けは鱈から出る塩味のみ。これにオリーブオイルやビネガーをかけて食べる。ブラジル人の知人は第一印象では呆れたようだが、食べてみると結構美味いと言っていた。上手に塩抜きしていたのだろう。
私の初バカリャウにおけるリアクションもブラジル人の知人同様であった。出てきたものを見て、これがレストランと称するところで出される料理かと驚いた。白い皿にのっているのは白身魚の大きな切り身とゆで卵とジャガイモである。色彩がない。しかしこれは許せる。許せないのは塩辛くてとても全部は食べられなかったことである。今考えるとそこは黙っていても観光客が来る立地である。地元の人はわざわざそんな店に行かないだろう。文句を言うべきだったが、その頃はあまりポルトガル語が話せなかった。