ポルトガルの食べ物、生活、観光情報


by caldoverde
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世界一美味しいチョコレートケーキ

女性運転士が運転する市電とアールヌーボー調の20世紀初頭の建物
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 私の住んでいるところはリスボンの中心からやや西のほうにあるカンポ・デ・オリークという住宅地である。100年ほど前から開発され、中産階級の人たちが多く住むところだそうだ。ピンクや黄色の中層アパートがびっちりくっつき合って建てられ、建物の1階が店舗や事務所になっているのは典型的なリスボンの町並みだが、ケヤキ並木があり、観光客に人気の市電28番のターミナルがあり、アールヌーボー、アールデコ調の装飾のあるカフェやアパートがあり、近くには白亜のバロック様式の教会エストレーラ大聖堂と20世紀ポストモダン建築の代表作アモレイラス・ショッピングセンターがあり、ありとあらゆる種類の店がそろっていて、住んで便利、散歩して楽しいところである。ただし、犬の糞が多いのと家賃が高いのが難である。

 無数のカフェやレストランがあり、特徴を述べるのが困難な平凡な店もあれば、がんばって差別化を図っている店もある。その中に最近新聞でサクセスストーリーとして紹介された店がある。その名を「世界一美味しいチョコレートケーキ」という。ふざけた名前のその店は市場の向かい側のアパートの1階に数年前にオープンした。建物の角の小さなスペースに椅子とテーブルが2組ほど、そしてケーキを入れるガラスケースがあるだけの小さな店である。

 どんなものか、この名前を見て好奇心で食べに来たのは私だけではあるまい。ところが開店ほやほやの店には、なんと私の他に、遠路はるばる日本からやって来た3人のお客さんもいたのだ。この辺は住宅地なので市電の外は観光客がカメラをぶら下げて歩いているのを見ることはめったにない。強いて興味ある場所をあげれば、文学が好きな人には詩人のペッソーアの記念館とか、タブッキの「レクイエム」に出てくるプラゼーレス墓地とかそんなところか。日本のガイドブックでカンポ・デ・オリーク地区に言及しているものはないだろう。

 ところが、世界一美味しいという噂がもう日本でも広まっているのか、日本人の男性1人と女性2人がすでにこの開店したてのカフェにいる。日本人客第1号になるという私の野望はついえた。無念さを隠し、3人に声をかけると、そのご一行はなんと有名なカステラ屋の社長さんとそのお嬢さん、そして通訳の日系ブラジル人の女性であった。近いうちにポルトガル菓子の喫茶店を新宿のカステラ屋の上に開くので、その研究視察のためにポルトガルに来ているとのことであった。この「世界一美味しい」店のシェフとは外国で行われたお菓子のコンペで知り合ったそうだ。
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 さて問題の「世界一美味しいチョコレートケーキ」であるが、外観は何の飾りもなく表面をチョコで覆っただけのプレーンなものである。有名なウィーンのザッハトルテのようにつやつやの滑らかな磁器を思わせるような仕上げではなく、いかにもポルトガルのお菓子らしく、田舎の楽焼の陶器のような、飾り気のない無骨な様子である。この外観で世界一は難しいと思われる。

 ケーキのコーティングは、パリパリの硬いチョコではなく、とろりと流れるようなチョコレートシロップ。中身はチョコムースとメレンゲが交互に重なっている。台もメレンゲでできている。粗野な外観であるが、実は大変崩れやすい繊細なものである。ふんわりと泡を包んだ、ビロードのように滑らかなムース、サクサクと軽いタッチのメレンゲ、それぞれの層は異なった舌触りが楽しめるが、いずれも瞬く間に口の中で溶けていく。ノーマルとブラックの2種類あり、ノーマルは柔らかなミルクチョコレートのまったり味で、ブラックは濃厚なこってり味である。材料はフランス製の最良の製菓用チョコレートを使っているのだそうだ。しかも粉を使っていない。真のチョコレート好きにはたまらないだろう。

 でも私にとっては何か足りないような気がする。日本の洋菓子は必ず香り付けに洋酒を使うが、ポルトガルの菓子は酒をほとんど使わない。サヴァランでさえ、砂糖のシロップだけで肝心のラム酒は使っていないのでは?と思われる。この「世界一美味しいチョコレートケーキ」もチョコ自体の香りのみで勝負している。それはそれでいいのだが、隠し味にほんのちょっとチョコを引き立てるリキュールかブランデーを加えると良いのだがな・・・と砂糖、ならぬ左党の私は感じる。

 そんなわけで、「世界一美味しいチョコレートケーキ」は私の評価ではポルトガルでは上位十位の中に入るかもしれないが、1位かどうかはちと微妙。そして世界中のチョコレートケーキの中でトップに位置するのは、やはり日本の菓子職人の作るケーキではなかろうか。

 この大胆不敵なネーミングは、すでに長年レストランや厨房用品店を経営しているオーナーが、初めは冗談だったが、一度聞いたら絶対忘れないインパクトがあるということに気づきこの名前にしたそうだ。目論見は当たり、今ではこの小さい店での小売ばかりでなく、沢山のレストランにチョコケーキを卸している。クリスマスにはホールのケーキの注文に追われ、そして最近ブラジルのサン・パウロにも支店を出した。

 ところで開店当時、視察に来ていたカステラ屋さんは後にポルトガル菓子店を開き、私も立ち寄ったことがある。パステル・デ・ナタなどはかなりオリジナルに近く、味もなかなか良かったが、残念ながら閉店してしまった。
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Commented by おっちゃん at 2007-09-01 00:16 x
日本のカステラ屋さんが、カステラの古里(?)ポルトガルを訪ねる、いい話やなあ。近頃日本のケーキもどっしり系よりも、粉を減らしたシフォンケーキみたいのが流行りのような気がします。電動の泡立て噐やフードプロセッサーが普及したためかしら?昔のケーキはもっとどっしりしていた気がしますね。
Commented by caldoverde at 2007-09-01 19:21 x
こちらでは日本ではあまり見なくなった、コテコテのバタークリームのケーキとか、昔の「クリームパン」に使われていたカスタードクリームもどき?の黄色いクリームのお菓子とか懐かしの味が健在です。
Commented by OvosMoles at 2007-09-01 23:17 x
私もそこ、去年行きました。「世界一~」とかいうネーミングは、だいたい期待はずれですけどね。注文品のホールもいくつか置いてあり、かなり繁盛してそうでした。そこのパティシエがフランスだかベルギーだかで勉強してきた証書が掛けてありますよね。肝心のお味は、私には合いませんでした。メレンゲが好きじゃないのと、甘すぎ。あまり繊細さも感じませんでした。そこに居合わせたカステラ屋さんの評価は?
チョコだったら、Pestana Palaceのショコラティエ陣がポルトガルではトップクラスだと思います。オビドスのチョコ祭りでもいつも受賞してます。それで、さくら会のイベントでP.Palaceでチョコレートアフタヌーンティーを企画したんです。下見に行って、数種類のチョコレートケーキを試食もしました。気絶しそうなほど美味しくて、見た目も美しく、感動しました。あんなに美味しいチョコレートケーキはなかなか日本でもないとまで思いました。ただ、実は本番では、試食のときほど美味しくなかったんです。たくさん作って雑になったのか、その日に作ったパティシエが新米だったのか、ちょっとガックリ。日によって味が違うというのはポではよくありますよね。結局全て目分量っこと???
Commented by caldoverde at 2007-09-02 16:27 x
私を下見に連れてって~!本番はいいですから。ポル人はお金貰っちゃうと安心して手を抜くんじゃない?同じ店の同じものでも日によって味が違うというのはよくありますね。昔コインブラの下宿のおばさんに料理を教えてもらったとき、「じゃがいもの量は」と聞いたら「食べたいだけ」という返事が返ってきました。
by caldoverde | 2007-08-30 22:44 | お菓子・カフェ | Comments(4)