ポルトガルのヌーヴェル・キュイジーヌ その1
2008年 03月 10日
後から入ってくる客の様子も、私が行くような店の客層とは明らかに違う、ハイソ感漂う人々である。友達から譲りうけた1チャンネルしか写らないテレビを持つ私にはどこの誰だか知らないけれど、誰もが知っている有名人だったのかもしれない。給仕もジャケットにネクタイを締めており、ノーネクタイのワイシャツに黒の化繊のズボンという普通のポルトガルのボーイさんとは一線を画している。普通のボーイさんは店から制服を貸与されるが、この店の人は、アルマーニとまではいかなくても、BOSSのようなところで自分が選んだ服を着ているようだ。この日私はたまたま仕事用の服で行ったからまだ良かったものの、いつものように10年前に買った混紡のセーターにシワだらけの綿パンツという格好だったら、給仕の引き立て役になっていた。
メニューの種類は前菜が5種類、肉、魚がそれぞれ3~4種類ほどと、これも普通のレストランに比べるとかなり少ない。きっと向かいのリヴェイラ市場でシェフが見立てた素材によってその日のメニューが決まるのだろう。席に着くとポルトガルのレストランでは例外的なミネラルウォーターのサービスがあり、パンが運ばれてくる。ここではミニサイズのコッペパンと小さな皿に入ったオリーヴオイルであったが、パンは手で持つと思わず「あちち」と驚くほど焼きたてである。オリーヴオイルはヒスイのようにきれいな緑色で、そういえばメニューにどこどこ産ヴァージンオイルとか書いてあった。これだけで口がよだれでいっぱいになる。
そして小さな皿に入ったお通しがやってきた。丸い、アイスクリームのようなものに、薄く黄色いせんべいみたいなものが突き立っている。「何とかチーズのムースでございます。」と黒服が説明した。スプーンですくい口に入れると淡雪のようにふわふわと溶けていく。それでいてチーズのコクや塩気がしっかりと効いている。ポルトガルでは前菜のチーズというとうまいけど臭い古漬けのようなもの、でなければ豆腐のようなケージョ・フレスコと相場は決まっているが、このような形のチーズを食べたのは初めてだった。飾りのせんべい状のものは卵の黄身ではないかと思う。
お通しはそれだけではなかった。今度は四角い皿に一口サイズのオードブルが3種盛り合わせてある。薄切りのパンにテリーヌをのせたカナッペ、レンゲのような入れ物に盛った小さなタコのサラダ、リキュールやウィスキーを飲むようなミニグラスに入ったアスパラガスのスープ。盛り付けも味付けもポルトガル料理にしてはこじゃれたものばかり。
その日の会食は女性ばかり5人であったが、めいめい1皿ずつ頼むのではなく、前菜から3品、魚、肉から各2皿選び、シェアすることにした。少しずつ色んなものを食べてみたいという女の欲求である。
その間ソムリエに料理にあうワイン赤と白を一本づつ選んでもらった。スーツをびしっと着た若いソムリエがこれまたポルトガル人には珍しく(失礼)エレガントで格好良いのである。この店を推奨したグルメのお友達によると、ワインのチョイスがとても良いということである。この先数ヶ月は贅沢できないという覚悟と、普段飲んでいる安ワインとソムリエの選ぶワインの差はどのようなものだろうかという期待に胸の鼓動は高まる。初めに白が来た。一口飲んで「うっ・・・もう後戻りできない」とつぶやいた。こんなうまいものを呑んでしまった後は、味の記憶が薄れるまで当分の間、近所のスーパーでワインを買うのはやめようと思った。
やはり復活祭が大きな行事ですか?
流行の「ショット」とか「ちりれんげ」でサーブされる料理は美しいですよね。そして確かに美味しい、美味しいんだけど、物足りないと思いませんでしたか?思ったでしょ?隠しちゃいけませんwww
今はアーモンドの花がきれいで、花蘇芳も咲き始め、5月のジャカランダーはほんとにきれいなんですが、なぜお花見しないんでしょうね。
客観的に見て、私にはこんな上品な店は似合わないです。私に相応しいのは、デコラ張りにパイプのテーブルと椅子、ソムリエの代わりにおっさんが水を飲むようなコップにふちまでなみなみワインを注ぐ、そんな店です。