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私の住むアパートから10分ほど歩くとバロック様式の教会エストレラ大聖堂がある。この辺はリスボン名物の市電28番も通り、教会の向かいはこれまた美しいエストレラ公園になっているので、よく外国人観光客が訪れる。教会と公園の間の市電の通る坂道を下っていくと、国会議事堂に出る。この坂道の両側にはアズレージョ張りの古い建物が並び、小さな店が軒を連ねている。私の好きなのは緑のタイルの可愛い八百屋さん。いつも軒からバナナやらブドウやら色んな野菜や果物を吊るしてとても楽しいディスプレーだ。最近この八百屋の隣のピンクの建物にアラブ菓子の店が開店した。名前はMEL DAS ARÁBIAS (アラビアの蜜)。

ウィンドウにはアラブっぽい置物が飾られ、内部は天井が高く広々として高級チョコレート店のような雰囲気だ。宝石店のショーケースのようなカウンターには見慣れない小さなお菓子が並ぶ。どれも100gあたりの値段が記されており、1個から買える。難しいお菓子の名前は、20回唱えても顔と反比例してシワのなくなりつつある脳には記憶できない。

いかにも中近東美人のお姉さんが試食に勧めてくれたのは、日本のボンタンアメやきび団子のようなゼリー状のものの中に、胡桃やピスタチオが入った小さなさいころ状のお菓子。主原料はとうもろこしの澱粉らしい。中には舌が痺れるほど甘いものがある。

薄く切ったおこしのようなお菓子は、周りはそうめんより細い糸状にした小麦粉の生地を寄せ集め、蜂蜜かシロップで固めたピスタチオナッツや胡桃を包んだもの。チョコレートをかけたさくさくパイの中身は白餡のようなペーストだ。人参、オレンジ、ナッツを羊羹のように固めたお菓子はゆべしにそっくりの味と食感。そしてココナッツを砂糖で固めたような激甘の白い菓子。
ポルトガルのリンギッサやスペインのフエットという腸詰に良く似た細長い菓子が何種類かある。アラブ菓子はこんな風に細長い棒状に作って切って食べるのだろうか。それにしても本当にソーセージに似ている。

これらのお菓子は主にトルコから来ているそうだ。この店で作っている訳ではなく、元々箱詰めにしてあるものをバラして売っているらしい。そのお菓子の詰め合わせは店内の棚にずらりと並んでいる。甘さはポルトガルのお菓子にひけをとらないが、違うのは卵があまり使われていないこと、ナッツやドライフルーツがふんだんに使われていることか。
こんなにスペースがあるのに喫茶コーナーがない。これは致命的欠陥だ。こんな甘いものを食べたら、コーヒーやお茶を飲みたくなるのに。トルコ式コーヒーやミントティーがあれば、リスボン唯一のアラブカフェとして貴重な存在になるはずなのだが。しかし必ずビカ(エスプレッソコーヒー)はメニューに加えなければならない。でないとポルトガル人は絶対に行かない。世界共通のメニューが建前のマクドナルドも、ポルトガルではビカとパステル・デ・ナタをおいている。私の予感ではこのアラブ菓子店はそう長くは続かないだろう。閉まる前に珍しいものを食べておかなくては。