甘い骨
2009年 11月 24日
半ば呆然と、「グロッソ」もとい「鳥の巣」の置いてある別のカフェに足は向かった。雑誌は置いてないが、道でただで配られる新聞や不動産屋のチラシがある。それに豊富な種類のお菓子がある。若い女の子は無愛想だが、その父親らしいオーナーのおじさんは感じがいい。私の顔を見ると必ず「コーヒーと、あとは?」と勝手にお菓子を食べるものだと決め込んで、お菓子を挟むトングを掴みながら尋ねる。ここで笑顔があるかないかで、売り上げに大きな違いが出ることをポルトガル人はあまり知らない。このおじさんは本能的に知っているが、大部分のポルトガル人の店員はいかにもつまらなそうに接客する。それに比べるとブラジル人の店員は一般的に愛想がいい。閉店したカフェも例外ではなかった。
そんな訳でここに来るとコーヒーだけにしようと思っても、結局おじさんのソフトな圧力に屈する形でついつい甘いものを頼んでしまうのだ。しかしまた「鳥の巣」のようにそのお菓子自体が強力な磁力を発し、私の目を釘付けにさせ、ダイエットを忘れさせ、財布の中を小銭ばかりに替えてしまう魔法をかけるものもある。今日もそのようなものに出会ってしまった。
長さは約15cm。両端は拳骨のように丸くなった細長いシュー。その拳骨から黄色いカスタードクリームが溢れんばかりにぎっしり詰まっているのが見える。粉砂糖が振り掛けられその無骨な形を更に際立たせている。たった1個だけ売られていたこのお菓子の名前を私は思い出すことが出来た。「お菓子図鑑」によるとティビア(頚骨、すねの骨)と言う。
フォークもナイフも添えられなかったので、中央の長い骨の部分を指で掴むと、カスタードクリームの重みで端の関節の部分がだらりと下がりそうになった。慌てて関節をがぶっとかじると、「うっ、うまい…」また絶句である。久しぶりに日本のカスタードシューに近いものを食べ、懐かしさと美味しさで口の中が一杯だ。しかし簡単に折れ曲がってしまいそうな柔な「頚骨」だ。きっと骨粗鬆症に違いないと思いきや、しっかり中央の骨の中もクリームが入っている。これ1本で小さめのシュークリーム3個分はある。今日の昼食はいつもより遅く、軽いものにしなくてはと決心し、顔についた粉砂糖を払って店を出た。
絞り方が乱暴な為、本当は均一になるはずだった太さがこのように。
そして膨らんでみると、あらまさに骨の形だわ~、これ使える~、と
商品登録。めでたくまた新しいお菓子がひとつ生まれたのであった。
めでたしめでたし。
モライス・ソアレス通りのティビアは片方の端が、もっこり二つに分かれています。慎ましやかな婦女子が、これにかぶりつくのを見て笑おう、という店員及び菓子職人の、下心が丸見えの代物よ。一度試食にいらっさいませwww