ポルトガルの食べ物、生活、観光情報


by caldoverde
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カテゴリ:パン・ご飯( 8 )

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「パダリア・ポルトゲーザ(ポルトガルパン屋)」は今や30店舗を超え、リスボンの主要な地区に一軒はあるという大成功を収めたベーカリーで、4年ほど前にできた近所のカンポ・デ・オリーク店は、確か2号店ではなかったかと思う。手頃な値段と新鮮さは開店当時から多くの客を引き寄せた。私も初めの頃はココナツのたっぷり乗った「神様のパン」やクルミをぎっしりキャラメルで固めたタルトが好きで、ちょうどバス停がすぐ前にあることから、週数回は足を運んでいた。しかしどんどん店舗が増えて、ここにしかなかったものがどこにでもあるようになると、なんだか飽きてしまい、しかも大好きなクルミのタルトが姿を消して「パダリア」に行く動機も失せてしまい、しばらくは足が遠のいていた。
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しかし最近しばらくぶりに覗いてみると、普通のパンやサンドイッチの間にすごいものが見えた。直径20cmくらいの丸いパンの中に、何かがぎゅうぎゅうに詰まっている。ゆで卵とバジルの葉で飾られた、鱈とひよこ豆のサラダだ。普通、鱈とひよこ豆のサラダは小さな皿に盛られ、メインの食事の前のオードブルとして供されるのだが、これは前菜の域をはるかに超えた量だ。どうも新しいランチメニューとして加わったらしい。パン自体も相当大きいのに、中身の量もオードブルとして3〜4人いや5人分はありそうなこの鱈サラダパンを、女が一人で食べている姿を見られるのはさすがに恥じらいを感じたので、テイクアウトにして家で食べた。
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持ってみるとズシンと重い。みっしりと目の詰んだ田舎風パンのもちもちとした中身をくり抜いて容器状にし、ほぐした鱈にひよこ豆と玉葱を混ぜたサラダが溢れんばかりに詰められている。味は鱈の塩気と玉葱の辛み、ひよこ豆のほんのりした甘さのみで、そのままでも十分に味わいがあるが、多くのポルトガルのレストランのサラダ同様、自分の好みでビネガーやオリーブオイルなどで調味できるように味付けを控えているのかもしれない。
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どうせ鱈のサラダが入っているのはパンの上の方だけだろうとたかをくくっていたが、大きなスプーンでがっとすくってもまだ豆や鱈がある。もりもり食べてもまだまだある。パンの半分の深さになっても、まだふわふわのパンの中身が出てこない。サラダの半分は豆なので、次第にお腹が膨れてくるが、一向に底が見えてこない。パンも食べたかったので半ば意地になってサラダを処理し、ようやくパンの器だけ残ったところで、ギブアップした。お腹は破裂しそうにいっぱいだった。結局パンの柔らかい部分はほとんどなく、固い皮の部分だけが残った。綺麗にくりぬかれた丸いパンは、翌日の昼食の材料として冷蔵庫に保存された。その日の夕食は必要なかった。
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中身は何に使われたのか?

翌日この素敵な器にどんな料理を盛ろうか考えた。チーズを溶かしてチーズフォンデュにしようか、クリームシチュー、いやビーフシチューにしようか、しかしどれもお腹にズシンと来そうだし、材料も買い揃えないといけないし…結局、物価の優等生の卵と台所にあった玉葱で、オニオンスープを作ってパンの器に入れてみた。かなり汁気が多いのに、パンは全く崩れない。しぶとい。スープを食べ終わり再びパンの器が残ったが、さすがに明日には持ち越さず、ちぎって食べた。腰のあるしっかりしたパンの皮を平らげると満腹感120%になり、またその日の夕食は必要なくなった。
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コリアンダーをたっぷり使ったアレンテージョ風?オニオンスープ

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by caldoverde | 2016-02-04 05:23 | パン・ご飯 | Comments(5)

パンそぼろ

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右の小さなタンクはオリーブオイル、他の2つはワインのタンク

近所にワインを計り売りする酒屋ができた。1L、2L、5Lの単位で、リスボン、パルメラ、アレンテージョ、トラス・オス・モンテス各地方のワインが買える。専用瓶は50セントで、何回かリサイクルできるので、家に空瓶がたまらずにすっきりするし、試飲して好みのワインを選ぶことができるので、何度か足を運んだ。
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牛ハム、チョリソー、サラミ、オリーブ、パンなどつまみもあり

この店では様々なイベントも催される。先日はミガスというアレンテージョ地方の郷土料理と肉加工品の試食が行われた。ミガスとは、硬くなったパンを再利用して生まれた料理で、アレンテージョ地方にはそれぞれの村ごとに違うミガスがあり、またそれぞれの家庭でもおふくろ味のミガスが作られる。
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ニンニクの香りが腹の虫を刺激

基本材料は3つ。パン、ニンニク、オリーブオイルである。オリーブオイルにニンニクを入れて香りをつけ、細かく千切ったパンを入れ、中華料理のようにコンロの上で揺すりながら炒める。これにアスパラガスを加えたのがこの日紹介されたミガスだった。皿に盛ったミガスに数枚のチョリソーを添えればローコストでお腹が膨らむ一品料理となる。
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アレンテージョレストランではミガスは肉料理の付け合わせとして出されることが多い。豚肉をラードで揚げ、その脂でパンを炒めたミガスを添える。オリーブオイルを使ったものより風味が豊かで、肉が黒豚ならなお美味しい。でもカロリーは知らない。これも材料を余すことなく活用した料理だ。
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ミガスは写真のようなそぼろ状のものもあれば、水を加えてねっとりとしたものもある。もっと水分を加えておかゆ状にしたものはアソルダとなる。そろそろ野生のキノコやアスパラガスの季節だ。春の香りを楽しみに、キノコやアスパラガスの入ったミガスやアソルダを食べにアレンテージョに行きたい!
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by caldoverde | 2015-02-05 21:14 | パン・ご飯 | Comments(4)
 夏の1ヶ月間の帰省からリスボンに戻ると、あそこにあった店が閉めてしまった、ここにこんな店が開いたと、地域の商店の消長を見ることになる。階下の数年間空き家だった貸し店舗にもようやく飲食店が入った。名前は「プラゼーレス(快楽)」というのだが、別にキャバクラではなくベタベタなトラディッショナルなポルトガルのカフェ兼食堂である。プラゼーレスとはこのカンポ・デ・オリーク地区の端にある墓地の名で、市電の終点の停留所名でもある。店の奥の壁面には大きく引き伸ばした市電25番プラゼーレス行きの写真が飾られている。
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店の奥から市電がやって来る

 開店の日曜日の朝8時、早速どんなものかコーヒーを飲みに行ったが、昔からある味をモットーとするだけに、特筆すべきものは何もなかった。開店当時は通りに面した部分は全面ガラス張りで外も中も丸見えのお洒落な外観だったのが、そのうちにガラスに紙のテーブルクロスを三角に切った「日替わり定食」やら「持ち帰りOK」やら「今日はベンフィカ対ギマランイスの試合があるよ」やらのメニューを張り出すことによって、また内部を通行人の視線から一部遮断することによって逆に好奇心を引くようになったのか、客の安心感を与えることになったのか、開店から半月、順調に顧客を増やしているようである。

 一方、カンポ・デ・オリーク地区に隣接するアモレイラス地区に新しい、画期的なパン屋が開店した。日本でもチェーン店を展開している「エリック・カイザー」というフランスのベーカリーだ。アモレイラスショッピングセンターの、通りをはさんだ向かいにあるモダンなビルの1階は洋服屋が入っては潰れるを繰り返していたが、とうとうリスボン初の高級感溢れるオサレなブーランジュリーが上陸したのだ(陸続きだが)。これは19世紀にナポレオンがポルトガルに攻めてきた時以来の脅威になるのではないだろうか。

 店内に入るときれいに並べられたケーキに目が釘付けになった。私はこの日を待っていた。やっとポルトガルでも日本の洋菓子店が作るケーキに匹敵するものを味わうことができるのだ…!はっきり言ってポルトガルの菓子屋のケーキは日本の主婦が趣味で焼くものと大きな隔たりはない。
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 カウンターの後の壁には直径が40cmもあろうかと思われる巨大な丸いパン、パン・ド・カンパーニュが並ぶ。この美しさ、端正さで田舎パンと呼ぶのなら、ポルトガルのパンはドドド田舎パンである。もちろんこんがり焼き色の着いたバケットも並ぶ。
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お昼はサンドイッチとスープとソフトドリンクのセットメニュー7ユーロ。ちょっと高い。でもバゲットにはちゃんと辛子が塗ってある。

 ここなら本物のクロワッサンが食べられるはずだ。大学の語学コースで同じクラスになったフランス人が、ポルトガルのクロワッサンは偽物だとフンガイしていたが、私もその通りだと思った。ポルトガルの田舎のクロワッサンもどきは、卵とオレンジジュースを使った生地を丸めて焼いたもので、本物とは似ても似つかないものだ。まずくはないけど。

 店内はレストランとしても十分な広さがあり、ガラス窓を通して職人がパンを焼く様子が見える。フランスから派遣された職人が指導しているようだ。

 出勤前に開店したばかりの「エリック・カイザー」でコーヒーとくるみのたっぷり乗ったブラウニーを食べた。アメリカ系ファストフード店によくあるメニューだが、アメリカのお菓子にありがちの歯にねっとりとまとわりつくようなくどさはなく、ふんわりと軽い口当たりである。
 仕事の帰りにもう一度立ち寄り、今度は念願のケーキを食べることにした。ザッハートルテを思わせるようなつややかなチョコレートのコーティングにピンクのマカロンが飾りにつけられた、シンプルな外観であるが、手間がかかっていそうなケーキだ。中身はチョコレートのムースをくり抜くようにラズベリージャムが仕込んであり、底には薄いチョコレートスポンジが敷いてある。これなら、日本のデパ地下に出しても遜色はない。ついでに値段も4.50ユーロ(480円)と日本の高級ケーキと遜色ないお値段で、この店に通うのを断念させるのに十分であった。
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写真でよく見るとコーティングが一部崩れていました。

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一番上のポルトガルの伝統菓子と比べると洗練度が違う。でも毎日は食べられません。
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by caldoverde | 2011-09-16 23:05 | パン・ご飯 | Comments(12)
 私の住むカンポ(原っぱの意)・デ・オリーク地区に、最近新しいベーカリーが立て続けに2軒開店した。ほとんど斜向かいといって良いほどの至近距離である。
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ここに限らず、ポルトガルの公園は爺さん広場

 地区の中央には、日本と逆でママ友よりもジジ友が幅を利かすパラーダ公園がある。この公園の周りには既存のカフェが三店、そこから半径500mの間には、思いつく限り十軒ほど似たような喫茶店やパン屋が集中するカフェ激戦区なのだが、その中のまさに公園に面した、一年程ずっと「健康上の理由で休業します」という張り紙をつけていたスナック&バー(ポルトガルではきれいなママさんやこだわりのマスターのいる夜専門の飲み屋ではなく、大衆食堂)で改装工事が始まったと思ったら、あっという間にオサレなベーカリーに変わっていた。その名はパダリア・ポルトゲーザ(ポーチュギース・ベーカリー)。
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オレンジとブラウンが基調カラーのパダリア・ポルトゲーザ

 5月のとある週末、公園に面した新しいパン屋には期待に胸膨らませ、店員の手際の悪さに頬を膨らませた住民が群がっていた。客を効率よく捌くための番号札が、逆に研修を終えたばかりか或いは全く研修を受けていない店員の混乱を招き、それに対して申し訳なさの微塵も感じられない接客にもかかわらず、従来の店にはない品揃えに惹かれた人々は続々と店に入って来て、やっと自分の番が来ると今度は選択に窮し、店員に商品の説明を求め、店内はより混迷の度を深めるのだった。

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外装は白、インテリアはナチュラルのデグスタ

 しかしその数日前にはわずか数10メートル離れたところにベーカリーカフェがオープンしたばかりであった。ブラウンを基調としたナチュラルなインテリア、通りに面した窓には木箱にクッキーやパンを木箱に入れたディスプレーと、ポルトガルパン屋と非常によく似ている。名前はデグスタ(デグスタサオン=試食、試飲)というグルメを連想させる店名で、ウッディな広々とした店内(というか、テーブルが少なすぎ)の奥にパンやお菓子を並べたカウンターがあり、こちらも思わず選択に迷うような多彩な品揃えだ。

 パダリア・ポルトゲーザは一部上場の大手スーパーのベーカリー部門にいた一社員が、大企業で培ったノウハウを生かし独立した店だそうだ。大企業のバックがあるので、商品や店のイメージなどのマーケティングはしっかりしている。店のロゴやオリジナルグッズのデザインなどは洒落ている。しっかりしていないのはやる気と手際が足りない若い店員である。
 一方デグスタ・ベーカリーは義務教育を終えてから長年カフェで働いてきた1従業員がその働きぶりを認められ、ついに店を任せられることになり、妻や息子とともに一家総出でがんばっているという雰囲気である。店のおじさんは手際が良いわけではないが、一人ひとり愛想よく応対し、一回の買物につき2回はありがとうと言うので、こちらこそこんな小さな買物ですみませんね、と申し訳なくなる。もっともポルトガルの飲食店は客一人の売り上げがコーヒー1杯50セント(60円)は別に珍しくない。

 では品揃えはどうか。パダリア・ポルトゲーザはふわふわ系のパンが得意分野のようだ。特に「パン・デ・デウス(神のパン)」という表面にココナッツをのせて焼いた丸いパンが主力商品である。ほとんど全てのカフェやベーカリーにはパン・デ・デウスがあるが、ここのはココナッツが惜しみなく使われていて、パン生地がふんわりと柔らかいのが特徴だ。日本で流行った「ハイジの白パン」みたいな、焼きの甘い、歯ににちゃっとくっつくようなタイプだ。甘みの少ないふわふわのものもある。表面にゴマやけしの実、オートミールなどをまぶした丸いパンは、見た目も楽しくバターやジャムなしでもそれ自体で美味しい。
 菓子はパン・デ・ローとナッツやフルーツを混ぜたバターケーキタイプのものが揃っている。生フルーツを使ったタルトは日本では珍しくないが、このポルトガルではかなり洗練されたほうである。
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 一方デグスタ・ベーカリーは田舎風のどっしりしたパンに力を入れているようだ。噛めば噛むほど味の出るトウモロコシのパンや、皮は固焼きせんべい、中はむちむちの弾力のあるアレンテージョタイプなど大きなパンがガラスケースの中やカウンターの後のかごの中に鎮座している。食事系のものとしては野菜やチキンを巻いたクレープがある。野菜のクレープはおじさんが「ムイト・ボン(すごくうまいよ)」とお勧めするだけあって、ふんわりした皮に色とりどりの野菜がたっぷりのヘルシーな軽食だ。
菓子系も充実していて、マフィンタイプのものが数種類、ホームメイドタイプのケーキも食指をそそる。チョコレートやアーモンドをふんだんに使ったちょっと重そうなお菓子が多い。
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生クリームを薄いスポンジで挟んだ、サン・マルコスというケーキ。おじさんは切るのに失敗した。

 店の面積はデグスタのほうがポルトゲーザより1.5倍は広いのになぜか席は少なくがらんとしている。やたらと空間が多い。また道路に張り出したテラス席がないのはやや不利である。分煙設備のない店ではテラス席が喫煙席になるので、タバコを吸う人は中でゆっくりとコーヒーやパンを味わうことができない。もっとテーブルを増やさないと長っ尻のポルトガル人は入り口から中を覗いて通り過ぎてしまう。店の人の感じは良いので、応援したいのだが…。

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砂糖を使わないチョコタルト。見た目より軽くて甘さ控えめで美味い。

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粉よりドライフルーツの割合のほうが多いヘビー級ケーキ
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by caldoverde | 2011-06-06 23:22 | パン・ご飯 | Comments(10)

リッチな貧乏料理

 二月はあまりツキがなかった。今年もヴァレンタインデーはおひとりさまだった上に、風邪かアレルギーか知らないが喉をやられてしまい、商売道具である声を失った私は失業状態に陥った。天気は良いので気晴らしに外に出たくても、何かの花粉を捕まえて症状が悪化するのではないかという懸念もあり、家にこもる日が続いた。当然食生活も節約モードになり、冷蔵庫の整理に励むこととなった。二日前に炊いたご飯。薬を処方されたために飲めなくなった赤ワイン。一度使ったきりで冷蔵庫の隅に眠ったままの唐辛子ペースト。芽が出てきたニンニク。1個だけ残った玉葱。これらを復活させ、食べて成仏させなくては。

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アソーレスの料理によく使われる唐辛子のペースト

 ご飯はデパートで買ったちょっと高いバレンシア米で、袋のデザインが日本の農協のマークを連想させるのできっとうまいだろうと試しに購入したのだが、日本のお米が真珠ならばこのバレンシア米は玉砂利であった。きっとパエリャにすれば抜群に美味しいのだろうが、白ご飯向きではなかった。
 ワインは、階下のスーパーで、セレクションとかリザーヴとか書いてあるちょっとお高めのワインを集めたフェアを開催しており、その中で一番安い4ユーロ98セント(約450円)のアレンテージョワインを買ったのである。さすがに普段飲む2~3ユーロのものよりはコクがあってうまい。しかし、ビンに3分の2も残したまま2~3日経っているワインはもう酸っぱくなっているだろう。
 たんぱく質は無農薬ものの食品を扱う高めのスーパーで一番安い鶏手羽4本1ユーロ40セント(約130円)を買い、これを唐辛子ペーストとワインに一晩漬け込んだ。

 翌日漬けた鶏手羽を調味液から取り出し、フライパンで焦げ目が付く程度に焼く。もちろん調味液は捨ててはいけない。その傍ら圧力鍋で薄切りにした玉葱とニンニクをオリーブオイルでしんなりするまで炒める。そこに冷や飯を投入し、パラパラにほぐすように混ぜ、さらに鶏手羽もぶち込む。その上から惜しみなくドボドボと赤ワインを注ぎ、残った調味液も加え、びっちり蓋をして強火にかける。圧力鍋がしゅるしゅるうなりながら蒸気を噴出し始める。10~15分ほど鍋を怒らせたままにし、適当なころあいを見て火を止める。すぐに蓋を開けることはできない。待つこと20分位であろうか、圧力が弱まって蒸気が抜けたのを確認して初めて鍋の中身を見ることができる。いったいどうなっているのだろうか、グチャグチャに溶けていないだろうか、黒焦げになっていないだろうか、味はちゃんと付いているだろうか…期待と不安に胸躍らせながらコックをひねり、重い蓋を開けた。そこには…



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 血のような赤いご飯が炊き上がっていた。ワインのかぐわしい匂いが立ち上った。ポルトガル料理のカビデーラよりも色も匂いも良いではないか。塩も何も加えず、唐辛子ペーストとワインと鶏手羽からのダシだけの味付けでものすごくうまい。残りものや安い材料といえども、それなりに良い素材を使ったせいだろうか。鶏手羽を丸ごと煮込むとそれなりにボリューム感も出る。私ってもしかして天才シェフ?と賛同してくれる相手もなく一人で赤ワイン雑炊を二日にわたって食べたのだった。
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by caldoverde | 2011-02-28 23:20 | パン・ご飯 | Comments(10)

黴寺の鶏雑炊

 私を含めたやまとなでしこ三人が、先日鴨を食べたあの店で夕食を取ることになった。鴨のオレンジ煮込みが美味だったので、また今日もあるかしらと期待しながら、夕方の買物や家路を急ぐ人々で賑わうチリ広場付近で待ち合わせをした。ところが鴨になったのは私たちのほうだった。

 少し遅れてやってきた友人を見つけて、もう一人の友達がスタスタと人を追い抜くように先に進み、小さな交差点のあたりで二人が出会ったところ、地面にカラカラーンと何か小さな金属ケースみたいなのものが転がり、私が一瞬それに気をとられている間、先に歩いていた友達は雄たけびをあげながら自分の財布を掴んでいた。何事かと思ったら、彼女の周りに二,三人外国人風の男たちがいて、その中の一人が彼女のポシェットから財布を盗ったのだ。なんと彼女は果敢にも反射的に携帯電話で泥棒の頭にパンチを食らわせ、泥棒は折角盗った財布を落とし、それをすかさず持ち主が奪い返したのだ。被害にあった友人によると、犯人は二人か三人組でそのうちの一人が彼女のジーンズの裾を掴んでパタパタと動かして気をそらせ、別の一人がポシェットから財布を抜き取るという手口だ。彼女は足フェチの新手の変態か?と思ったそうである。地面に落ちた金属缶もまた小道具のひとつだったかもしれない。

 幸い友達に実害はなかった。実害のあったのは携帯で殴られた泥棒のほうだった。標的は三人のうちで一番ぼおっとしている私でも不思議ではなかったが、金は持ってなさそうだと判断したのだろう。プロの泥棒は大金(ポルトガルでは百ユーロ=13000円でも大金)を持ち歩く獲物を嗅ぎわけるもので、私も近所の漫画家ヤマザキさんもそんなときに限って被害にあっている。ポシェットの斜め掛けは狙われやすい。ウエストポーチも然り。半ズボンのももの部分についているポケットから大金を盗られたという旅行客もいた。そんなところにお金をしまうのもどうかしているが。私はそのうちダミーのポシェットや空の財布を持って市電28番に乗り、自ら鴨となってスリの手口を研究したいと思っている。

 残念なことにその日はあの美味しい鴨のオレンジ煮はなく、いつでもどこにでもあるような平凡なメニューだった。こんなときは選ぶのに時間がかかる。いつでも食べられるけどめったにあるいは絶対に頼まないものもあるのだ。初めから好きでないもの、もう既に味がわかっているもの、以前食べたことがあるが美味しくなかったものなど。鴨になりそこねたというか食べそこねた三人は、やや仕方なくという感じで、モンゴウイカのグリル、小鰺の唐揚げ、鶏雑炊を頼んだ。
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玉葱のみじん切りの下にモンゴウイカが隠れている。プリッとしてとても美味しかった。

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カリカリ、熱々の小鰺の唐揚げはビールにぴったり。

 モンゴウイカと小鰺はアレルギーやよほどの魚嫌いでない限り、日本人には一般受けのする無難なメニューといえよう。しかし鶏雑炊を積極的に選択する日本人は非常に少ないと思われる。どんな料理か知らずに注文した日本人は料理がテーブルに運ばれてきた瞬間100%後悔するだろう。

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・・・こりゃ後悔するわ

 ARROZ DE CABIDELA DE GALINHA(略してカビデラ)は米をぶつ切りにした鶏肉や内蔵とともに血とワインで煮込んだどす黒いどろどろの料理である。ヤツメウナギのリゾット並に見た目が悪い。血が凝固しないように酢を加え、その酢の風味がリゾットの味の特徴にもなっている。それに加えて赤ワイン、北部なら特産の赤のヴィーニョ・ヴェルデを使って煮込むので更に酸味が増す。この酸味が好きか嫌いかでもこの料理に対する評価が違ってくる。酸っぱい料理が好きな人には美味しく、酸味が苦手な人には好まれない。でも全く酸味がないと味にメリハリがなくなって、ギトギトと油っこさが前面に押し出されるだろう。私はこの鶏雑炊はちょっと酸っぱめのほうが美味しいと思う。
 鴨の煮込みが美味しかったこの店の鶏雑炊は期待にたがわず、前回同様味が見た目よりもはるかに勝る出来栄えだった。ほどよく酸味を利かせながら肉のうまみを十分に吸ったご飯、しっかり下味をつけて柔らかく煮たコクのある鶏肉。十何年か前に食べた鶏雑炊がいまいちで、それきり外では食べたことがないという友達も舌鼓を打っていた。
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あなたはこの三つの料理の中からどれを選びますか?

 ポルトガルでは日本の飲食店の醤油と同様にテーブルにはオリーブオイルとビネガーが付きもの。ない場合はお店の人に頼めばすぐ持ってきてくれる。鶏雑炊の酸味が足りなければビネガーで酸味を補充することもできる。今はポルトガルの法律によって、飲食店で使われるテーブル用のビネガーやオリーブオイルは、他の容器に詰め替えてはだめで、メーカーのラベルのついた瓶のまま出さなくてはならない。容器に入れ替えて古い油や酢を新しいものと混ぜることにより鮮度や品質を落とさないためだろう。美味しいビネガーやオイルに出会ったら、ラベルのブランド名をメモして後でスーパーで同じメーカーのものを探すとよい。
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by caldoverde | 2009-06-30 03:31 | パン・ご飯 | Comments(11)

復活祭のパン

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 ポルトガルのいたるところにあるカフェやパステラリア(菓子パン屋)では、まだ暗い早朝はタクシーの運転手が眠気覚ましのコーヒーを飲み、朝は出勤前のサラリーマンやOLがカフェオレにチーズやハムを挟んだ丸パンの朝飯をかっ込み,9時過ぎから11半時ごろはリタイアしたおじさんやおばさんたちがおしゃべりや新聞読みに没頭し、12時過ぎから昼定食を食べに来る付近の会社員や住民で賑わい、午後は授業を終えた高校生や大学生がおやつを食べながら宿題をし、夕方は労働者が仕事の仕上げ前に軽く腹ごしらえし、夕飯がそろそろ始まるという夜7時半前後にようやく客も少なくなり店じまい、という1日中フル回転の商売である。中には夜11時までやっている店もあり、自宅で夕食をとった後、近所のカフェでコーヒーを飲みにいく人も多い。店のテレビのサッカーの試合を見て歓声を上げ、ため息をつく人たち、カウンターで従業員と世間話を交わす人たちなど、それぞれコーヒーを傍らに楽しんでいる。日曜日は家族連れがカフェにやってきて遅い朝食をとる。日曜日は主婦も休むのだ。

 どの店もカウンターのガラスケースに置いているものはだいたい同じ。甘い菓子パンと、サルガードス(しょっぱいもの)と呼ばれるコロッケやてんぷら、チキンパイなどビールのつまみ系スナックが20種類くらいあり、店によって種類や数は異なる。しかし日本のように季節限定ものや新製品が月ごとに登場することはまずない。10年前も20年前も、いや50年前も多分同じものが並んでいたのだろうと想像がつく。

 飲食施設のない、主に食事用のパンを売るパン屋もある。朝早くから客がやってきては丸いパンのたくさん入ったビニール袋を提げて店から出てくる。昔はカルカッサという軽いスカスカのパンは1個数円(1桁)という安さだったが、やれ石油の値上げだ、小麦の高騰だと、パンの値段の上昇はとどまることを知らない。食料自給率の低いポルトガルは国内消費をまかなうほどの小麦は生産されていない。それなのに、なぜかポルトガルのパンは美味い。
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ジャパンというスーパーの隣がパステラリア「リド」

 地下鉄アロイオス駅を降りると、マゼランの銅像の建つチリ広場に出る。このあたりは洗練とか最先端という形容とはだいぶかけ離れた、日本で言えば昭和テイストの昔っぽい庶民的な店が集まり、道行く人々はほとんどおじいちゃんおばあちゃんばっかりという老人パワー炸裂の街である。そのリスボンの巣鴨のベーカリー兼カフェ「リド」は、思わず生唾を飲み込ませるパンの数々が私を誘惑し、店に引き込み、その日予定していた献立をキャンセルさせてしまうのだ。

 この店のパンで一番気に入っているのはブドウパンである。卵を使ったほんのり甘いブリオッシュのような生地。これだけでも美味いのに、干しブドウがこれでもかこれでもかと入っている。これを薄く切って、カマンベールチーズや、ロックフォールチーズ、または白カビ青カビが合体したブレス・ブルーというチーズなどを乗せて、ワインと食べるとパンの甘さにチーズの塩気と独特の香りが交じり合い、官能的なとも言えるような佳肴となる。
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 もうひとつ買わずにいられないのが、巨大ポン・デ・ケージョ。日本でもおなじみになったブラジル生まれのおやつパンはポルトガルでも人気がある。粉チーズを混ぜたでんぷん質の粉で作ったモチモチの食感のこのパンは、普通は一口サイズなのだが、この店のは中華饅頭くらいの大きさで、緊急の食欲にすばやく対応してくれる。買って店から出るやいなや歩きながら頬張ってしまう。ポルトガルではいい年をした大人も歩きながらものを食べる人が多いので、私も羞恥心が麻痺しつつある。
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 そろそろ復活祭の季節。移動祝祭日なので、何月何日なのかはさっぱりわからないが、パン屋やお菓子屋に殻付きゆで卵入りのパン、フォラール・デ・パスコアが登場するともう春だと実感する。大きいものだと4つの卵が練りこまれている。表面はジャムか何かで照りが付けられている。生地はどっしりと目が詰まっていて、ほんのり甘く、香草で香りが付けられている。
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 他にも北部名物の角切り腸詰めがごろごろ入った黄色い大きなパン、コッペパンの中に薄切りチョリソを詰めて焼いたチョリソパンなどそれだけで食事になりそうなボリュームたっぷりのパンがショーウィンドウに並ぶ。
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 食事を作るのが面倒になったときは、焼きたてのパンにポルトガルのエキストラ・ヴァージン・オリーヴオイルをつけて食べる。オイルに皮ごとつぶしたニンニクを入れてもよい。ポルトガルのオリーヴオイルはイタリアのものよりもはるかに美味しいと、イタリア料理のエッセー漫画を連載中のリスボン在住の漫画家ヤマザキさんは太鼓判を押している。うまいパンにうまいオリーヴオイル、そしてうまいワイン。ポルトガルはほんとに良いところだ。
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by caldoverde | 2008-03-08 00:56 | パン・ご飯 | Comments(5)

パン雑炊(アソルダ)

昼食を食べるおじさんたちで賑わう大衆食堂
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 アソルダという料理はカチカチに硬くなったパンを残さず美味しく食べられるように工夫して出来上がったものだろう。焼きたてのホカホカのパンを敢えてぐちゃぐちゃのどろどろにしなくてはならぬ理由はない。日本の雑炊と同じ、残り物料理に違いない。しかし、突然アソルダが食べたくなった時、パンを買ってそのまま2~3日放置して硬くなるのを誰も待ってはいられない。そんなわけでアソルダはその卑賤な出自にもかかわらず、結構高級な料理店でも出される立派な1品料理となっている。リスボンにはパパソルダというアソルダ専門店があるくらいである。高そうなのでまだ行ったことはないが。

 私の初アソルダ体験は某ポザーダ(昔は国営の宿泊施設)のレストランであった。歴史的ポザーダというカテゴリーに入る、有名な観光地の有名なポザーダであったが、一人旅の日本人の女にはなんだか冷たい、慇懃無礼な雰囲気が感じられた。そこで海老のアソルダを注文した。陶器のキャセロールが黒服の給仕によって丁寧に運ばれてきた。キャセロールのふちにむき海老がぐるっと輪を描いて並べられている。きれいに並べるのは多少手間がかかるのかもしれないが、余り芸のない盛り付けである。おもむろに給仕は生卵を割ってぼとっと中央に落とすと、2本のスプーンでぐちゃぐちゃにかき回し始めた。生卵の嫌いな私は心の中で「あ"~っ」と叫んだ。アソルダに生卵が付物であることを知らなかった。知っていたら、注文時に卵は要りませんと対策を立てることができたのだが。きれいに並べられた海老の輪は跡形もなく、キャセロールの中はカオスとなった。こうなっては卵をより分けるのも不可能である。一気に食欲を失くした状態で食べ始めた。しかしスプーンで一口食べると、一条の希望の光が差した。けっこううまいじゃん。ニンニクがきいている。コリアンダーだかパセリだか知らないが香草も彩と香りを添えている。海老も表面に飾られていたものだけでなかったらしく、パン雑炊の中にごろごろ入っている。
 ところが食べているうちにだんだん飽きてきた。肉や魚なら副菜に野菜やポテトがついてくるのだが、アソルダはどこをとっても同じ内容である。薄味ならソースをかけたり醤油をかけたりして調整できるが、味もしっかりついているのでこれ以上いじりようがない。キャセロールに半分ほど残し、せっかくのリサイクル料理もその理念を完全に実現しないまま下げられた。もともと1皿2人前だったのかもしれない。だとすれば従業員の丁重だが冷ややかな態度も納得できる(わけないって。)
上の写真のレストランのアソルダ。卵が固まってて良かった。
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 あるポルトガル人がポルトガル料理を評して盛り付けに工夫がない、特にアソルダのどこに美学があるのかという趣旨のことを言っていた。然りである。今火から下ろしたばかりの小鍋にど~んと盛られてくるのは、ぺこぺこにお腹が空いているときには大いに有効だが、逆に多すぎて見ただけでげっぷが出てくるというのも有り得る。もっと食欲をそそるような美的な演出もあるはずだ。例えばパンをくり抜いてその中にアソルダを詰めれば、歯ごたえのあるパンと、どろどろに溶けたおかゆ状のパンの2つの食感が楽しめて飽きないと思う。あるいは海老などの具は別に盛り、その付け合せとして海老のスープで調理したアソルダを添えるとか。そんなことを考えていたら、もともと残り物料理なんだからそんなに気取ることはないんだよ、と言う大衆食堂のおばちゃんシェフのがらがら声が頭の中で聞こえてきた。
 そう、アソルダは1人で食べるものではない。みんなでわいわい取り分けながら、色んなものと一緒に食べるのが美味しいのだ。
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by caldoverde | 2007-12-06 06:06 | パン・ご飯 | Comments(11)