ポルトガルの食べ物、生活、観光情報


by caldoverde
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羊の揚げ餃子

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 私の住むカンポ・デ・オリーク地区は住宅地と商業地区を兼ねており、徒歩圏内にほとんどあらゆる種類の店やサービス機関がある。レストランやカフェも多く、リスボンの地区別に発行される無料のガイドブックによると、カンポ・デ・オリーク地区の飲食店はざっと数えて約190店。正確な数字は知らないが、この地区の人口が1万人だとしたら、50人ちょっとに1件の割合で食べ物屋がある勘定になる。ひょっとすると住民全員が外食できるキャパシティがあるかもしれない。
 ここでは車や電車で遠出しなくても地方の郷土料理を徒歩5分で味わうことができる。町内のアレンテージョ料理店は知っている限り三店ある。その中のひとつMaganoは値段もそう高くなく、また前菜が魅力的なので、一人のときやあまり重いものを食べたくないときは前菜何種類かとワインだけで食事することもできる。
見た目も可愛いマッシュルームの前菜
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 アレンテージョは豚肉が美味しいので、当然黒豚の生ハムがある。黒豚か白豚かは知らないが、豚肉とアサリの「ポルコ・ア・アレンテジャーナ」ももちろんある。ところがあの「黒豚の秘密」はない。代わりに「黒豚の羽」pluma de porco preto がある。長年品種改良を重ねたアレンテージョの黒豚はカラスの羽のような大きな耳を持つに至り、耳は主にサラダにされるが、耳の付け根のわずかな筋肉の部分が「黒豚の羽」と呼ばれ一頭で2つしか取れない希少な部位として珍重される。狩の季節になると、ハンターが遠目で黒豚の耳を見てウサギと間違えて撃ってしまうことがある。他人の家畜を殺してしまったことをごまかすために周囲の人に「これは秘密ね」と口止めを頼み、脂ののった一番美味い肉を賄賂に贈ったので「黒豚の秘密」secreto de porco preto という名前が付けられたのだと言う。冗談はさておき「黒豚の羽」は「黒豚の秘密」よりもっと柔らかくて脂肪は少ない。

 アレンテージョといえば羊の肉や羊のチーズも有名である。以前紹介した羊のシチューのエンソパード・デ・ボレーゴが代表的な料理であるが、他には揚げた餃子のようなパイの中に羊肉のミンチの入った pasteis de massa tenra de borregoはリスボンでは珍しいかもしれない。パイ自体は美味しいけれど、日本人の感覚だとソースか醤油みたいなものがあるともっといいかな。羊のパイはトマトご飯がセットになって1人前の食事となるが、前菜として皆で仲良く分けて食べてもいい。
最初の写真が羊のパイ、これは付け合せのトマトご飯
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 Maganoには食指をそそる前菜がいろいろあり、前菜だけでお腹は十分膨れる。ソラマメとチョリッソのサラダ、ヒヨコマメと鱈のサラダ、焼きピーマンのマリネ、揚げたトレズモス。トレズモスは7月の日記「にこごりサンド」に挟まっているような肉の切れ端をハム状に固めたものではなく、豚の皮か脂肪を揚げたもので、パリッとした香ばしさに噛み締めるとじわっと脂肪の旨みが広がる食べ過ぎ注意のおつまみである。他にもマッシュルームにホウレンソウを詰めてチーズをかけ焼いたミニグラタン、たらこのサラダ、peixinhos de horta(畑の小魚)と呼ばれるモロッコいんげんの天ぷらなど。数種の肴にモチモチのアレンテージョのパンがあれば、お一人様でちびちび飲んでも寂しくはない。
たらこのサラダ
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モロッコいんげんの天ぷら
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デザートはセリカイアというアレンテージョの独特のお菓子。非常にきめの細かいスポンジケーキの表面にシナモンを振りかけ、プラムのシロップ漬けを添えたもの。
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by caldoverde | 2008-10-29 00:34 | 肉料理 | Comments(3)
 以前このブログで触れたことがあるが、ポルトガルの芸術の特色はヘタウマだというのが私の持論である。もちろんアカデミックな訓練をつんだ写実的な画風の芸術家も十分存在するが、細部は精密でも遠近法が変だったり、人物のデッサンが狂っていたり、どこか完璧でない作品が多い気がする。リスボンのフロンテイラ宮殿という17世紀の建物はアズレージョで有名だが、見ようによっては上手くない漫画としか言いようのないものが大勢を占めている。
アズレージョ美術館に所蔵されている17世紀のアズレージョ。この動物はいったい?
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18世紀初めのリスボンを描いたパノラミックなアズレージョ。適当な遠近法。
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 これは、ひょっとして食べ物と関係あるのではないかという仮説を私はたてた。7月3日の日記でも言及したが、ポルトガルのお菓子はほとんど卵黄でできている。それは修道院で大量に卵白をシーツや僧服の糊付けに使い、余った黄身は、貴族が寄進した砂糖とともにお菓子作りに費され、その伝統が民間に伝播したからである。それが絵と何の関係があるかと言うと、油絵が主流になる前の西洋絵画の技法は、卵の黄身を使って描くテンペラ画だったからである。フラ・アンジェリコの宗教画やボッティチェリの「春」「ビーナスの誕生」などは、顔料を卵の黄身で溶いた絵の具で描くテンペラ画である。ところがポルトガルでは画材に使う分の黄身まで全てお菓子にして食ってしまったので、絵画が他のヨーロッパの国々に比べて発展しなかったのではないか…というのが、私の「ポルトガル美術花より団子説」である。この説は議論を待つまでもなく否定されるであろうが。

 とにかく、現在もポルトガルのアートは世界の最先端をきっているとは思えないが、そのなんとも言えないとぼけた味わいは、殺伐とした21世紀の社会において、ほっと安らぎをもたらし、ぷっと苦笑を誘い、ガクッと膝を後ろから突かれるような、癒しの桃源郷へ誘ってくれるものである。その代表作をいくつか、ポルトガル製の飴のパッケージに例をとってご覧頂きたいと思う。

「サント・オノフレのど飴」
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 この飴の袋を見たとき、思わず肩を震わせた。会社の創業者だろうか、おじさんが歯の無い口でにかーと笑いながら飴の小袋を手にしている。このおじさんの顔がなんとなく可笑しい上に、手の向きがどうも納得がいかない。右手なのか左手なのか、描かれていない腕はいったいどうなっているのか、さっぱり想像できない。

「ナザレ アルテア蜂蜜のど飴」
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 亀甲紋で様式的に表現された蜂の巣、ボケた植物の写真、印刷のずれた包み紙に包まれたアメ、図鑑のように精密な蜂のイラスト、ダサい文字。統一感のないデザインだ。アメを包む紙に描かれた女性の顔が面白くて、かなり怖い。こんなに大口を開けてセキやクシャミをされたら、半径10m以内にいる人はみな感冒にかかるだろう。
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「ペーニャ 芳香のど飴」
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 中央の水色のアメから立ちのぼる湯気のようなもので、このアメがいかに芳しい香りかを表現しているつもりなのだろうが、私には風呂や温泉しか連想できない。その隣の何かの植物の実、仮面みたいで不気味である。爽やかな、とは形容しがたいデザインである。
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 これらのパッケージに共通しているのは、子供の嗜好を全く考えていないことである。こんな袋の飴がおやつだったら子供は全然嬉しくないだろう。風邪を引いて喉を痛めた時だって、薬と同じくいやいやながらなめるのではないだろうか。スーパーで子供がパッケージに惹かれて親の持つ買い物かごに入れる可能性はほとんどない。ハローキティやポケモンに負けない魅力がサント・オノフレ飴の社長にあるだろうか。いや、これは60歳以上の婦人を購買対象にしているのに違いない。
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by caldoverde | 2008-10-13 06:31 | カルチャー | Comments(5)

マルメラーダ

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 スーパーや八百屋にマルメロが並び始めた。新鮮な果物を人に例えたら、桃は赤ちゃんのほっぺ、サクランボは少女の唇、メロンはセクシーな女性の脚や胸(貧困な想像力にご容赦を)、ではマルメロは…マルメロに例えられて嬉しい人は誰もいないと思う。握りこぶしで洋梨の形を作ったような無骨な姿。見かけは悪くても中身は甘くて美味しいのだろうと思いきや、酸っぱくて生食はできないそうだ。
 そんなマルメロだが、イベリア半島では人々にとても愛されている。「マルメロの陽光」というスペイン映画は、老画家が果実のたわわに実るマルメロの木を一心に描き続けるのを淡々と描いた作品だった。私もマルメロの不思議な形に心惹かれ、鉛筆を取って描いてしまった。
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 マルメロで作ったジャム、マルメラーダはポルトガルで最も一般的なジャムだ。安いペンションの朝食や、大学の学食の定食には、必ずと言っていいほど小さなパッケージ入りの、または薄く切ったマルメラーダがバターとともにだされ、これをカルカッサというスカスカのパンに挟んで食べるのだ。

 ポルトの名所ドン・ルイス橋のたもとのレストラン街、リベイラ地区の河から一本中に入った薄暗い通りにある小さな店で昼食をとった時、デザートに出たのが、ケイジョ・フラメンゴと呼ばれる赤いワックスで覆われたオランダタイプのチーズの上にマルメラーダをのせたものだった。チーズといえば思い出すあの典型的な匂いと味を持つチーズと、山形銘菓「のし梅」にも似た甘酸っぱいマルメロ羊羹の組み合わせという意表をついた取り合わせに衝撃を受けた。日本では想像のつかない食べ方だが、チーズの塩分や匂い、マルメラーダの甘さが適度に中和され、慣れるとやみつきになる秀逸なデザートである。
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 ポルトガルのお菓子屋には、自家製マルメラーダを製造販売しているところがある。中にはオリジナルの陶製の容器入りのものや、注文に応じお客さんが持ち込んだ容器に入れてくれるところもある。可愛いどんぶりのような容器に入ったマルメラーダは甘い物好きへのプレゼントとして喜ばれるに違いない。
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 マルメラーダは容器入りのほかに、つまんで食べられるように一口サイズに切って砂糖をまぶしたものもある。また、ジャムではなく、果物の形とさくっとした歯ごたえを残したコンポートもある。このような製品はグルメショップやポルトガルの国産品だけを扱う専門店にあり、お値段も良い。一方、普通のスーパーにある量産品のマルメラーダは、他のジャムに比べるとずっしり重いが安い。

 昔住んでいた下宿の女主人のマルメラーダ作りを手伝ったことがある。果実の皮をむいてお湯でゆで、柔らかくなったらムーランというハンドルでぐるぐる回す裏越し器でなめらかにし、それに砂糖を加えて煮る、という工程だった。私はむいた皮をゴミ箱に捨てたが、後からマダムにあの皮はどうしたと聞かれて捨てたと答えたら、がっかりされた。マルメロの皮にはペクチンがたくさん含まれ、皮をゆでたお湯に砂糖を加えるとこれまたマルメロゼリーができるのだそうだ。そのときは既にマルメロの皮の上にかなりの地層が形成されていた。
 私は半強制労働が一つ減ったことでほっと胸を撫で下ろした。
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by caldoverde | 2008-10-04 23:56 | 野菜・果物・キノコ | Comments(13)