ポルトガルの食べ物、生活、観光情報


by caldoverde
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お菓子における温故知新

 近所に外見に惹かれて入りたくなる要素は何もない、地味なカフェがある。他の店に比べてがらんと広いので一見あまり客が入っていないように見えるのも避けていた一因であった。歩いている途中ふとコーヒーが飲みたくなり、たまたま目の前にあったので中に入った。

 おおっこれは…!!以前紹介したお菓子の図鑑に載っているようなトラディショナルなお菓子がずらりと並んでいるではないか。これだけの品数を揃えている店はそれほど多くない。コーヒーだけのつもりだったが、感じのいいおじさんに「食べるものは?」とにこやかに(こういう従業員もそれほど多くない)尋ねられ、予定外であったが「イエズス会士」という小さなパイのお菓子を頼んだ。一口食べて「うまいっ!」と心の中で叫んだ。違う、どこか違う。こんがり焼けた表面は砕いたアーモンドとメレンゲで覆われて、とても香ばしい。パイは薄い層が口の中でサクサクと崩れては散っていく。黄身クリームは甘ったるくなく、軽い感触のパイにとてもよく合う。

2日目。コーヒーカップと砂糖の袋のデザインが可愛い。
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 翌日同じ店に行って今度はパイの中に生クリームを挟んだものを頼んだ。これも表面にメレンゲとクランチアーモンドがかけられている。これも「うまいっ!」と感嘆した。パイ菓子はたまに生地がパリッとせず中でくっついていたり、やたら油っこかったりするのがあるが、この店のはパイ生地がものすごく薄くてその間に十分に空気が入っている。またふんわりとホイップした生クリームは、口の中ですうっと溶けて後にはミルクのやさしい味だけ残り、しつこさを感じさせない。

三日目。初めて見るお菓子。3個しかなかった。
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 翌々日食べたのは、ごついクッキー様のものの中央に黄身クリームがこんもりと盛られた、鳥の巣のような見たことのないパターンのお菓子である。おじさんになんと言う名前か聞くと「グロッソ(ごつい)」というもので、卵と小麦粉と砂糖で出来ているということであった。そりゃどのお菓子もそうである。ところが手に持ってみると以外にずっしりとして、しかもふにゃふにゃしている。大口を開けてがぶりと噛み付いた。てっきりカリカリ・ボソボソしたものだと思い込んでいたら、はらはらと細かなパイ生地がこぼれ落ち、指と口の周りにはカスタードクリームがべっとりくっついてきた。「うっ…うまいっ!」予想を裏切る食感と、いまさらながらのカスタードの美味しさに絶句した。まろやかなカスタードクリームの中から、香ばしく焼けたパイが現れた。これは、餅をあんこで包んだおはぎのごとく、パイをカスタードクリームで塗りこめ、上部を丸く残してクリームに細かく砕いたパイ生地をまぶしたものであった。

四日目。日本にもこの手のものはよく見られる。
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 こうなったらこの店のパイ菓子全てを征服してやる!という野望に燃え、四日間連続通うことになった。今度はコロネ型のパイの中に生クリームとレッドチェリーという、いかにも昔からの菓子パンといった風情のものである。しかしこれは残念ながら外れであった。パイを巻貝の形にむらなく焼くのは難しいのか、生地がくっついている箇所があり、あのさくさく感が足りない。生クリームも前に食べたお菓子のクリームと比べていまいちだ。そしてチェリーはやはり見た目通りの駄菓子的人工的な味。という訳で、すごく不味いわけではないが、もう一度食べたいとは思わないクリームコロネが私の止まらぬ欲情にブレーキをかけた。このまま突っ走っていたら私の体重とコレステロール値はどうなっていたことだろうか。

 家族経営っぽい、お洒落なところのさっぱりないこのカフェは、全てが完璧でなくどこか外しているポルトガル、というセオリーに忠実だ。ほとぼりが冷めたら、また「グロッソ」を食べに行こう。
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by caldoverde | 2009-01-23 02:47 | お菓子・カフェ | Comments(11)

Save the キャベツ

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 日本にいたときはキャベツに品種があるなんて思いもよらなかったが、ポルトガルのスーパーや市場には常に何種類かのキャベツがある。中国キャベツ(コーヴェ・シネーザ)とはご存知白菜。しかしこちらではどのように白菜を調理するのかは知らない。日本で一般的に見られるキャベツはポルトガル風ポトフ「コジード・ア・ポルトゲーザ」でダイナミックに煮込まれる。肉やチョリッソの旨みをたっぷり吸った甘味のあるキャベツは本当に美味しい。

 心臓の形をした可愛い「コーヴェ・コラソン(ハートキャベツ)」と言う品種は、柔らかくて甘味があるので細かく切ってスープに使われることが多い。

 ミーニョ地方発祥でポルトガルを代表するスープとなっているカルド・ヴェルデは「コーヴェ・ガレガ(ガリシア・キャベツ)」と言われる菜っ葉が欠かせない。ベテラン主婦は濃い緑色の固い葉っぱをくるりと巻いて目にも留まらぬ速さでトトトトと千切りにし、中堅主婦はハンドルでぐるぐる回す道具で細く刻み、新米主婦は市場で既に刻まれビニール袋に入ったキャベツを買い、ズボラ主婦はスーパーでレンジでチンするだけのレトルトを買い、私はレストランでプロの作ったものを食べる。

ちりめんキャベツと生ソーセージ
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 葉が鮮やかな緑色で美しい縮緬模様の「コーヴェ・ロンバルド(サボイ・キャベツ、ちりめんキャベツ)」は煮崩れないので、ソーセージを巻いてポルトガル風ロールキャベツにする。この料理で使うソーセージは、香辛料をたっぷり使って固く干しあげたチョリッソではなく、生の挽肉を羊腸に詰めたフレッシュ・ソーセージ。挽肉を使うより簡単で美味しい。
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  ポルトガルの土産物屋でよく見るキャベツや果物の形をした食器を作る陶器の会社は、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したボルダロ・ピニェイロという陶芸家件漫画家が興した。アール・ヌーヴォーの影響を受け自然からのモチーフをふんだんに使った、リアリズムと装飾性の融合したユニークな陶器やアズレージョなどをたくさん生産してきた。比較的手ごろな値段のテーブルウェアや、ポルトガルの庶民を現したユーモラスな人形や、動物や植物をリアルにかたどった置物などを作る本社は、古い温泉病院のあるカルダス・ダ・ライニャ(王妃の温泉)という町にある。この町の名物の焼き物としては、ボルダロ・ピニェイロの製品のほかに、私のような上品な女性が口に出すのも憚るような仕掛けのあるマグカップもまた有名である。日本にも温泉地にはとんでもないみやげ物があるが、ポルトガルも然り。

 ところが昨今の世界を覆う不況の影響で、この歴史ある陶器メーカーが経営危機に瀕しているという。ウェッジウッドやローゼンタールなど世界的に有名な高級ブランドだけでなく、ポルトガルにもその余波が押し寄せてきたのである。この愛すべき陶器が生産されなくなるのは残念だ。何とか持ち直して欲しい。
キモ可愛いボルダロ・ピニェイロの陶器
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by caldoverde | 2009-01-20 08:35 | 野菜・果物・キノコ | Comments(8)

リスボン、シネマの都

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 ポルトガルではクリスマスと元日はお店はどこも休み。ポルトガル人の生命維持装置であるカフェでさえ、この日に開いているところを探すのは困難を極める。街は閑散としている。唯一営業しているのは映画館だ。

 ポルトガルは比較的映画が安い。ショッピングセンターには映画館があり、5ユーロから6ユーロで最新の映画が見られる。また、シネマテカという映画の博物館では非常に安い料金で珍しい映画や歴史に残る名作を見ることができる。月ごとにテーマが設けられ、それに関連する映画が日替わりで上映される。日本の監督の特集も時々行われる。私はここで初めて小津安二郎や黒澤明の映画を見た。リベルダーデ大通りからちょっと入ったところにある、瀟洒なお屋敷を改装した建物で、素晴らしいアラブ風の吹き抜けと、古い映画のポスターが壁に飾られたお洒落なカフェがある。
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 残念なことにリスボンの名画座はこの10年間の間に次々と姿を消してしまい、皆同じようなハリウッド娯楽映画を上映するシネコンばかりになってしまった。館主がこだわりを持って選んだ良質の作品を見せていた、古くて汚いが格安の入場料の映画館はほぼ絶滅した。

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 街には映画の黄金期に作られた歴史的な映画館のいくつかが、他の用途に転用されたり、廃墟となって残されている。エストレーラ大聖堂から市電が坂を上っていく途中、板塀に囲まれ、窓をレンガで塞がれたPARISという昔の映画館の残骸がある。落書きだらけで朽ち果てて今にも倒壊しそうだ。こんな状態になってもう何十年も経っている。なぜ市は放置しているのだろう。1930年代のアールデコ様式のこの建物は、市の文化財のひとつとして捉えられているらしく何度も保存改修の話が出ているが、未だ手付かずのままである。かなりいい場所にあるので、マンションを建てれば高く売れるはずなのだが。こんなになるまで取り壊しが行われないのは、法律や権利に関する問題のほかに、リスボン市民のこの古い映画館に対する愛着がよほど深いのだろう。おやつや弁当を持ち込み家族連れでやって来る庶民、スーツを着た男性に手を取られて自家用車やタクシーから降りる毛皮の女性、市電の外側に掴まってただ乗りし他の観客に紛れ込んでただ見するいたずら小僧たちで賑わい、まさに「ニューシネマ・パラダイス」の世界だったに違いない。ヴィム・ベンダースの映画「リスボン・ストーリー」にもこの映画館が登場する。



音楽はマドレデウス。日本の車のCMソングに使われたのが、この「海と旋律」



 このパリ座の廃墟の向かいにカフェがある。一日に一度はバスの窓から見たり、近くを通りかかったりするのだが、特に入る気の起こらない超平凡なカフェだった。ところが昨年改装し、シックでノスタルジックなお店に変身した。看板は映画の一場面らしき男女の写真。道に面したガラス窓には、古いブリキの菓子箱。店内には映画のスチール写真が飾られ、内装は木を使い(普通は新建材やプラスチック)いかにも古い映画に出てくるバーのようである。シネマが再建され、その前を市電が走るのを眺めながらコーヒーを飲むのはどんなに素敵だろう。リスボンの名物カフェになれるのだが。ところがせっかく改装したこのカフェ、クリスマス休暇を延長中で、何の張り紙もなく閉まったままである。誰かシネマ・パリスとカフェ・ルア・ノヴァを救ってくれないだろうか。
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直径15cmはある特大クッキーはもう食べられないのだろうか。
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by caldoverde | 2009-01-07 08:50 | カルチャー | Comments(21)