ポルトガルの食べ物、生活、観光情報


by caldoverde
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追憶の酒場

 ポルトガルに魅せられた人達の何%かは船乗りに違いない。世界中を旅する船乗りが人生でたった一度、せいぜい1日、長くて数日、運が良いのか悪いのか寄港が長引き、数週間から1ヶ月リスボンやポルトに上陸し、忘れがたい印象を心に刻み付けているという話を聞いたり、実際にそのような元船員に会ったことがある。
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夕暮れのサンタ・アポロニア駅とアルファマの街

 仙台で小さなマクロビオティックのレストランを経営している男性は自分の店を「友苑」から「レイション」と改名した。ポルトの街を流れるドウロ河の河口にレイションイスという大きな工業港があり、この店の主人がかつて商船の船員として立ち寄った港がこのレイションイスだったのだが、長いことLeixões という綴りをどのように読むのか知らずにいた。謎が解けると彼はお店の看板を思い出深い港の名を取って新しいものに作り直した。

 アラン・タネール監督の映画「白い街で」の主人公も山国スイス出身の船乗りである。船の修理か何かでリスボンに留まることになり、カイス・ド・ソドレの酒場の上の安宿に逗留する彼は、8ミリカメラでスイスの妻に近況を伝える一方で、酒場の女とねんごろになり、次第に港から去りがたくなっていく。
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映画に登場したブリティッシュ・バー

 初めての土地なのになぜか昔居たことのあるようなノスタルジア。会う人、見るものが皆懐かしく思える不思議な既視感。ポルトガルは、特にリスボンとポルトという二つの港町は訪れる人々にそのような感興をかきたてる場所なのだ。何年何十年経とうが、同じ街角に同じバールがあり同じ客がいつものようにテレビのサッカー中継に見入っているはずだ、と信じさせるものがある。実際は飲食店の消長は結構激しく、都市再開発によって昔の建物はほとんど残っていない地区もあるのだが。
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サンタ・アポロニア駅前の食堂

 ある男性は35年前に船員としてリスボンに寄港し、1ヶ月の上陸期間中毎日のように通った酒場にもう一度行きたいという一心で再びリスボンにやって来た。わずか数日のリスボン滞在中、必ずあの酒場を見つけ、経営者の家族との再会を果たすと確信しながら。日本からのお土産をどっさりと携え、雨の降る冬の石畳の坂を上り、見当をつけた通りをしらみつぶしに歩いた。しかし目的の店は見つからなかった。当然だ。ポルトガルは人口に対する飲食店の数がヨーロッパ1なのだ。観光客の来ない住宅街にあり、丘の上のアパートの並ぶ一角にあり、間口は狭く入り口にコーヒーやビールを飲むカウンターがあり、奥にテーブル席がある。そんな店はリスボンに五万とある。せめて通りの名前や近くにある広場の名前がわかれば探しやすいのだが、これだけの手がかりでは海岸で落とした指輪を探すくらい困難である。その人はたまたま出会ったポルトガル人に連れられてその酒場に通うようになり、途中案内された有名な教会は記憶していたが、酒場の近くの目印となるランドマークは覚えていなかった。
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駅裏の坂道にあるバー

 落胆してホテルに戻るタクシーの中で、その店がどんな印象だったか繰り返し話す元マドロスさんの頭の中には、ありありと35年前の酒場の光景が正確に再現されている様子が伺われた。私にもどんな店なのか想像することができるくらい、ティピカルなリスボンの酒場であった。夕方近くに歩き疲れて一休みするために入った何の変哲のないカフェで、まさしく35年前に通った酒場がこんな感じだったと感慨深げにその人は語った。リスボンの飲食店の90%がこんなですよと告げるのは、サンタクロースが存在しないことを子どもに教えるのと同じ位、夢を壊す行為と思われた。しかしその人にしか判別できない世界中にたった一つの酒場は確かにリスボンに存在し、そのイメージが鮮やかに脳裏に生き続ける限り、この人は探索を諦めないだろう。

 リスボンは船乗りを美しい声で誘惑し虜にするサイレン(人魚)のような街だ。
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その名もハリウッド・グリル
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by caldoverde | 2010-01-19 05:32 | ポルトガルの旅 | Comments(9)

タスカで年越し

 2009年もあと2日を残すのみとなった。遣り残したことは多い。目標に達しなかったものがありすぎる。刻々と過ぎる残されたわずかな時間で何か達成感を得るようなことはないだろうか。冷蔵庫の整理を思いついたが、既に調味料しか入っていなかった。それならいつ行っても満席だったあの店に一人で行って何か食べてみよう。そうすれば心残りなく年越しができる。午後2時半を過ぎた今ならひとつくらい空席もあるはずだ、と妙案が浮かんだ。遂に数回のチャレンジを経て念願の有名シェフの店「タスカ・ダ・エスキーナ」のテーブルに着くことができた。
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 入り口に近いところはカウンターと背の高いテーブルとスツールがあり、中のテーブル席が空くまで軽いものをつまんで待つようなスペースとなっている。大きなガラス窓のあるテーブル席は白と黒を基調としているが冷たい感じはなく、むしろ親密な感じのするスペースだ。メニューはその日のお勧めがスープと魚料理が各1種類、他に定番の前菜、魚料理、肉料理が数種類ずつある。少し離れたテーブルではカップルが嵩のあるものすごくうまそうなステーキを食べていたが、私の食欲の方は小腹がすいた程度でそれほどボリュームのあるものは必要なかった。しかし、ここでは色んなものをちょっとづつ味わうデグスタシオンが何コースかある。私は自分の胃と懐具合を見ながら、もっとも品数の少ないスープ+3品コースを頼んだ。ついでにこの店ではワインがグラスで飲める。しかも2ユーロ80セントのものからある。前菜も3ユーロ程度のものからあるので、懐をそれほど気にせず一流シェフの味が楽しめる(はずだ。)

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 本日のスープは香草のたっぷり入ったヒヨコマメのポタージュ。ビロードのようになめらかな舌触りと喉ごし、金色に光るオリーブオイルとフレッシュなハーブが香りを添える。

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 小さな器に入った鶉の卵とキノコの前菜。卵の下のプリン状のものはやはり卵の味がする。キャビアに見えるのはみじん切りにしたキノコのソテー。

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 かりっと香ばしい揚げパンの下にはガロウパと言う魚のトマトソース煮。白身魚とトマトの組み合わせは漁師料理のカルデイラーダやカタプラーナでおなじみだが、こちらはおしゃれな帽子をかぶり、地中海のリゾート地で日光浴を楽しむリッチな奥様といった風情。

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 ベルビガンという貝のニンニクオリーブ炒めコリアンダー風味。ポルトガルでは貝料理は絶対砂が入っているだろうと覚悟して食べるが、ここのは全くジャリジャリせず、しかも火を通しすぎずプリッとしている。貝は皿一杯に盛っていても可食部は少ない。しかし皿に残った貝汁をパンに付けて食べるという楽しみがある。

 ヴィトル・ソブラルは居酒屋(タスカ)の値段で気軽に創作料理を食べてもらおうと、高級レストラン主任から、住宅街の一角にこの店を開いた。その目論見は当たり、いつ通りかかっても満席になっている。大衆食堂よりはスノッブだが、高級店よりはリーズナブル。大きなガラス窓は、外からは楽しそうに飲食する人々の姿が見え、中からは市電や道を歩く人を眺めることができる、開放的で親しみやすい環境は、鰻の寝床式に奥行きのある従来のレストランと一線を画している。ただし、一般にポルトガルレストランは大人数であるほど一人あたりの値段が安くなる傾向だが、この店は量が少ないので大勢で行くと品数を多く注文することになり、ワインもグラスから頼めるので、色々飲み比べたくなる。すると高級店と変らない勘定書きが来る可能性も無きにしも非ず。それがヴィトル・ソブラルの狙いかも知れない。私はその手には乗らない。堅実におすすめ3品、グラスワイン1杯、コーヒーのみで、しめて18ユーロだった。勘定書きを良く見たら、パンとオリーブが入っていない。店の人が気づかぬうちにさっさと精算して出てしまおうと良からぬ考えを抱きながら、20ユーロ札を持って会計にいった。すると感じの良い女の子は満面の笑みを浮かべ「ありがとうございます!」と元気に挨拶した。これは当然18ユーロにチップ2ユーロを加えた金額だと解釈した笑みである。私はおつりを請求する勇気がなく、プラマイ0か~と納得しながら店を出た。
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by caldoverde | 2010-01-06 03:30 | 話題の店 | Comments(7)