ポルトガルの食べ物、生活、観光情報


by caldoverde
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泥棒市でお宝探し

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サカヴェン社のカップ&ソーサー。1950年代のもの?

 8月は仕事が少ないので故郷の仙台に帰省するのが恒例となっている。幸い実家の私の使っていた部屋はほぼそのままで、猫の毛が現場に不法侵入者の痕跡を残すのみで私の数少ない財産は無事保全されていた。
 数年間リスボンの美術学校で陶器の修復を勉強していた私は、実習に使う教材を探しに、アルファマで毎週火曜日と土曜日に開かれる「泥棒市」に通っていた時期があった。わざわざ欠けた茶碗や継ぎはぎだらけの皿を買い、それを分解し、今度は継ぎ目が見えないように修復する。上手く再生できた伊万里焼の大皿などは、友達が1万いくらで買ってくれた。しかし、たまには欠けのないきれいなアンティークも欲しくなる。ひょっとするとお宝が見つかるかもしれないと期待しながら、地面に広げられたガラクタの山を物色し、その中からキラッと光る(ように思った)ものを見出しては手にとって色んな角度からじっくり観察し、売り手と値段の交渉をし、双方納得のいく値段で落札する。これは価値あるものに違いない、将来値が上がるだろうと信じて。
 そして飛行機で十数時間かけて大事にリスボンから仙台に運んだ陶器のコレクションを久々に見ると、何でこんなものに大枚はたいたのか?と目が覚める思いも無きにしも非ずなのだが、少なくとも私が確かにリスボンに暮していたという証拠物件にはなる。
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テージョ河の見える泥棒市会場

 リスボンの「泥棒市」はその不穏な名前にふさわしく、由緒正しくない歴史がある。今でも多分売り物の、特に中古の携帯電話などは何パーセントかは盗品である可能性が高い。日本人の女の子がモラリア(アラブ人地区)と呼ばれる、サン・ジョルジェ城の北斜面の階段の道を歩いていたら、移民の男に携帯の入ったポシェットを引ったくられた。数日後彼女が「泥棒市」を歩いていたら、何と盗られた携帯が露天で売りに出されていたそうだ。私も引ったくりやスリで携帯を無くすこと三回あり、その度に「泥棒市」に探しに行った。残念ながら見つけることは出来なかったが。その他にも鍵束、はがされたタイル、何かの機械の部品など怪しいものがたくさん売られている。
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人形の頭も商品

 中には首をひねるようなものも堂々と売られている。手を触れるのも憚られるような汚い靴とか、よれよれの下着とか。しかし実用的なものもあり、私は小さなスツールを買って帰りは満席の市電でも座って家路に着くことが出来た。
 90%はガラクタと言っていい「泥棒市」の品揃えだが、その中で珍重され、好事家の対象となるのはやはり古い陶器やアズレージョ(タイル)を扱う出店だろう。18世紀の青いアズレージョなどは、骨董屋でいい値段で売られているが、「泥棒市」だからといって特別安いわけでもない。いずれにせよかなりの確率で古い建物から勝手に剥がしてきたものであろう。新しいアズレージョも盗難の被害にあう。リスボンきってのお屋敷街レステーロ地区の邸宅の外装に使われていた、現代アーティストのタイル絵が盗まれたというニュースを見た事がある。ひょっとするとここで売られたのかもしれない。そんなに立派なものでなくとも、ごくありふれた二十世紀の大量生産の粗雑な模様のタイルも「泥棒市」ではアンティークとして扱われている。
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壁のアスレージョがはがれると、泥棒市で調達した適当なタイルで補修?

 現在は二十一世紀なのだから、確かに前世紀のものはもう骨董品だ。世界を制覇する勢いで増えている中国雑貨店の商品のごとく、大量生産大量消費されていたものが、生産が終了すると蒐集の対象になることも多い。そのひとつがサカヴェンの陶器である。イギリスの大衆的な陶器の出来の悪いイミテーションみたいな製品をじゃんじゃん作っていたこの工場は1974年の革命を機に労働者の発言力が強まり、度重なるストライキの挙句、閉鎖されてしまった。日本では考えられないことである。リスボン空港の少し北にあった工場跡は現在陶器博物館になっている。
 ちょっと古い家にはたいてい何個かこの工場で作られた皿やコップがある。ターゲットは庶民なので値段も品質もそれなり。絵柄はその時々の流行にあわせて様々なパターンがデザインされ、絵柄を見ればいつ頃作られたかがわかる。仕入れ値が安くて、ちょっぴり年代もので、今は作られていないサカヴェンの陶器は「泥棒市」の主力商品のひとつだ。
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 私は一時このサカヴェンの陶器にはまってしまった。特に気に入っていたのはバラの花を中央に置き周りをピンクにぼかしたシリーズで、仙台に置いてあるものの他に、リスボンのアパートにも何個かある。サラダボウル、深皿、カフェオレカップなど、なかなか可愛い。よく見ると微妙に色合いや花の形が違う。量産品はぴったり同じコピーというイメージがあるが、ポルトガルのはいかにも人間が手で作ったような不ぞろいさ、仕上がりのムラが特徴といっていいだろう。人間には好不調があり、それが製品にも反映されて当然だと言わんばかりの、印刷のズレ、色ムラ、はみ出しや白地の中の汚れなど。同じロットでもよく見れば皆違うものだったに違いない。量産品でありながらどこか手作りの味わいを残しているのが魅力なのだ。

 骨董はのめりこむときりがないと言われる。サカヴェンの陶器も毎週毎週掘り出し物が掘り出されるので、お金が続かずいつしか「泥棒市」に通うのをやめた。日本や外国で高い評価を受けているのならともかく、集めたところで売る時は二足三文だろうと冷めてしまったのもある。当時下宿住まいだったので、場所をとるという理由もあった。実際に食べ物をよそうのに使ういくつかの皿やサラダボウルをリスボンに残して、特にきれいな気に入ったものはこの仙台に持ってきておいたのだった。このコレクションが私の老後の保証になることはないだろうが、実家で二匹飼っている猫の餌を入れる器としていつか役に立つ日が来るかもしれない。
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これはサカヴェンではなく、英国の人気メーカー「スージー・クーパー」のパトリシアローズの楕円皿。
日本では2万円以上の値がつけられている。泥棒市で破格値で購入するも、幸運は2度なかった。

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by caldoverde | 2010-08-24 01:25 | カルチャー | Comments(4)