ポルトガルの食べ物、生活、観光情報


by caldoverde
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 夏の1ヶ月間の帰省からリスボンに戻ると、あそこにあった店が閉めてしまった、ここにこんな店が開いたと、地域の商店の消長を見ることになる。階下の数年間空き家だった貸し店舗にもようやく飲食店が入った。名前は「プラゼーレス(快楽)」というのだが、別にキャバクラではなくベタベタなトラディッショナルなポルトガルのカフェ兼食堂である。プラゼーレスとはこのカンポ・デ・オリーク地区の端にある墓地の名で、市電の終点の停留所名でもある。店の奥の壁面には大きく引き伸ばした市電25番プラゼーレス行きの写真が飾られている。
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店の奥から市電がやって来る

 開店の日曜日の朝8時、早速どんなものかコーヒーを飲みに行ったが、昔からある味をモットーとするだけに、特筆すべきものは何もなかった。開店当時は通りに面した部分は全面ガラス張りで外も中も丸見えのお洒落な外観だったのが、そのうちにガラスに紙のテーブルクロスを三角に切った「日替わり定食」やら「持ち帰りOK」やら「今日はベンフィカ対ギマランイスの試合があるよ」やらのメニューを張り出すことによって、また内部を通行人の視線から一部遮断することによって逆に好奇心を引くようになったのか、客の安心感を与えることになったのか、開店から半月、順調に顧客を増やしているようである。

 一方、カンポ・デ・オリーク地区に隣接するアモレイラス地区に新しい、画期的なパン屋が開店した。日本でもチェーン店を展開している「エリック・カイザー」というフランスのベーカリーだ。アモレイラスショッピングセンターの、通りをはさんだ向かいにあるモダンなビルの1階は洋服屋が入っては潰れるを繰り返していたが、とうとうリスボン初の高級感溢れるオサレなブーランジュリーが上陸したのだ(陸続きだが)。これは19世紀にナポレオンがポルトガルに攻めてきた時以来の脅威になるのではないだろうか。

 店内に入るときれいに並べられたケーキに目が釘付けになった。私はこの日を待っていた。やっとポルトガルでも日本の洋菓子店が作るケーキに匹敵するものを味わうことができるのだ…!はっきり言ってポルトガルの菓子屋のケーキは日本の主婦が趣味で焼くものと大きな隔たりはない。
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 カウンターの後の壁には直径が40cmもあろうかと思われる巨大な丸いパン、パン・ド・カンパーニュが並ぶ。この美しさ、端正さで田舎パンと呼ぶのなら、ポルトガルのパンはドドド田舎パンである。もちろんこんがり焼き色の着いたバケットも並ぶ。
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お昼はサンドイッチとスープとソフトドリンクのセットメニュー7ユーロ。ちょっと高い。でもバゲットにはちゃんと辛子が塗ってある。

 ここなら本物のクロワッサンが食べられるはずだ。大学の語学コースで同じクラスになったフランス人が、ポルトガルのクロワッサンは偽物だとフンガイしていたが、私もその通りだと思った。ポルトガルの田舎のクロワッサンもどきは、卵とオレンジジュースを使った生地を丸めて焼いたもので、本物とは似ても似つかないものだ。まずくはないけど。

 店内はレストランとしても十分な広さがあり、ガラス窓を通して職人がパンを焼く様子が見える。フランスから派遣された職人が指導しているようだ。

 出勤前に開店したばかりの「エリック・カイザー」でコーヒーとくるみのたっぷり乗ったブラウニーを食べた。アメリカ系ファストフード店によくあるメニューだが、アメリカのお菓子にありがちの歯にねっとりとまとわりつくようなくどさはなく、ふんわりと軽い口当たりである。
 仕事の帰りにもう一度立ち寄り、今度は念願のケーキを食べることにした。ザッハートルテを思わせるようなつややかなチョコレートのコーティングにピンクのマカロンが飾りにつけられた、シンプルな外観であるが、手間がかかっていそうなケーキだ。中身はチョコレートのムースをくり抜くようにラズベリージャムが仕込んであり、底には薄いチョコレートスポンジが敷いてある。これなら、日本のデパ地下に出しても遜色はない。ついでに値段も4.50ユーロ(480円)と日本の高級ケーキと遜色ないお値段で、この店に通うのを断念させるのに十分であった。
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写真でよく見るとコーティングが一部崩れていました。

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一番上のポルトガルの伝統菓子と比べると洗練度が違う。でも毎日は食べられません。
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by caldoverde | 2011-09-16 23:05 | パン・ご飯 | Comments(12)
 ポルトで市電が復活した。数年前は一本しかなかった路線が、久しぶりに来てみると観光コースも含めて四本になっていた。推定平均時速10km。ダイヤは一時間に二本。交通手段としてはあまり役には立たないが、優美でクラシックな市電で世界遺産の旧市街やドウロ河沿いをのんびりと散歩するのはポルト観光の楽しみのひとつである。

サンフランシスコ教会前から発車する1番線
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 ポルトガルの大阪であるこの街は食い倒れの街でもある。トリパス、バカリャウ、タコの天ぷら、フランセジーニャ等々、大抵の料理はリスボンよりも気前よい大盛りだ。

 一方でポルトにはリスボンよりも洗練された面もある。世界的な建築家やポルトガルを代表するファッションデザイナーやメーカーはポルトを拠点としている。北部はアパレル産業の中心地なので、リスボン市民も洋服や靴・バッグは種類も豊富で比較的安いポルトで買物をするのは頷ける。
 ついでに男性モデルもポルトか北部の出身者が多いようだ。ポルトガルに初めて来た時は美男子が全然いない国だと思ったが、リスボンではなくポルトから入っていたら印象が違っていたかもしれない。
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 ある建築雑誌がポルトの海岸沿いのtaviというお菓子屋を紹介していた。創業1935年の老舗はイタリアの建築家によって、ポルトガルの民間建築の伝統を汲みながら自然とモダニズムを調和させた清潔感あふれるスペースに生まれ変わった。大西洋を望むテラス席、北部特有の花崗岩の石壁とナチュラルな木製の家具、自然光を取り入れた明るい室内、販売コーナーと飲食コーナーを大胆に分割する階段。なかなかオサレである。しかもインテリアに負けず劣らずケーキの写真が涎が出るほど美しい。まるで日本の洋菓子店のケーキのようだ。リスボンに無数にあるお菓子屋のどれひとつとしてこんなケーキを作っている店はない。ぜひこの店で大西洋を見ながら日本風(?)のケーキを食べたい。

市電に乗ってGO


 場所はドウロ河口のフォス地区に近いところで、市電1番の終点からさほど遠くもなさそうだ。taviまでは市電の旅としよう。この日は曇り空で雨が時折ぱらつくいかにもポルトらしい天気なのは残念だったが、わずか三人の乗客を乗せ、対岸のポートワインの工場群、世界最大のコンクリートアーチのアラビダ橋、可愛いアズレージョの小住宅、小さな漁船と漁師たちを眺めながらのんびりと河沿いを走る市電の旅は愉快だ。終点で降り、瀟洒な住宅や公園を見ながら古い城砦を通り過ぎ、海沿いの道から一歩入った小さな商店の並ぶ道をぶらぶら歩くと、海の見渡せる小さな芝生の広場が現れ、その隣に外観はごく普通の店舗兼住宅といったたたずまいのカフェtaviがある。
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 ちょうど雨雲が切れて青空が広がる海に面したテラス席に陣取り、ディジョンのマスタード風味ローストビーフとバナナペーストのクロワッサン、という凝ったサンドイッチを食べた。一皿に、パン、前菜(サラダ)、肉料理、付け合せ(ポテト)、デザート(バナナ)と全部揃ったフルコース。普通のカフェのてんこ盛りとは一線を画した、さすがケーキ屋と思わせる洒落た盛り付けである。
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 しかしデザートがバナナクロワッサンだけでは甘みが足りない。それに元々の目的はケーキなので、食べずに帰るわけにはいかない。冷蔵ケースには、高級レストランのデザートのような洗練されたお菓子が何種類かある。ピンクの饅頭型のバラのムースにも心惹かれるものがあったが、これまた珍しいイチジクのムースを選んだ。二種類のチョコレートを使った濃厚なガナッシェのベースに、プチプチと種が歯に心地よく感じるイチジクのムースを重ね、上にチョコレートの飾りをつけたもの。甘さは控えめだが、かなりこってり系で、小さくても十分満足できる。苦いエスプレッソの他にブランデーも欲しくなった。
 眺めの良い素敵な店で美しいケーキを味わいながら食べる、ポルトの贅沢な午後であった。
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水平線上にカステロ・ド・ケイジョ(チーズの城)が見えるtaviの前の海岸
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by caldoverde | 2009-05-16 00:51 | ポルトガルの旅 | Comments(4)

チョコレートの王子様

 リスボンの情報誌に最近変わったチョコレート屋が開店したという記事が掲載された。ゴディバのような世界中どこでも買える高級チョコレートではなくて、超希少なサントメ・プリンシベ産のチョコなのだそうだ。サントメとはアフリカ大陸の大西洋側の豆粒のような小さな島国である。サントメ(聖トメ)島とプリンシペ(王子)島という主な2つの島からなり、旧ポルトガル領で世界の最貧国のひとつである。主な産業はカカオ。このサントメ産のカカオだけを使ったこだわりの店が、プリンシペ・レアル(皇太子)公園のそばの坂道にオープンした。

このあたりは古いきれいな建物と骨董屋が多い
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 1坪ちょっとくらいの小さな店だが、入り口に小さなラグビーボールのようなカカオの実が飾ってあるのですぐ判る。ガラスケースの中のチョコレートは何か工業材料のような、平べったくてでこぼこしたタブレット状になっている。手作りと言った場合、熟練の職人技を駆使したものか、または素人が作った素朴だが味わいのあるものと言う意味合いで使われることが多いだろうが、ここまで来ると、原始的な道具とメソッドを使った、ほとんど考古学的に再現されたチョコレートといった趣きである。
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 オレンジ入り、生姜入り、カカオ%かは忘れたがとにかく純度の高いものと何種類かある。いずれもミルクは使っていない。真のチョコレート好きのためのチョコレートだ。店ではホットチョコレートも飲める。私はスペイン式のドロッとしたココアが大好きなのだがあの甘さが胃に重い。この店のは粘りが少なくさらっとしているが、深い香りとコクがある。昔は薬としても用いられていたというチョコレートの原点のようなピュアなココアだ。体がぽかぽか温まり、胃も元気になるような気がした。
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 1種類だけ中にラムレーズン入りの高級一粒チョコレートのようなものがある。そのレーズンはカカオの実の中の白い部分を発酵させたブランデーに漬けたもので、そのブランデーは古い資料を基に再現した貴重なものだそうだ。非常に美味しく文字通り有難いものである。

理科の実験室のようなそっけない店内
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 店の美しいお姉さんはそれぞれの商品に関してとても熱心に説明してくれるので、ココアを飲んだだけで帰る勇気がなくなり、生姜とオレンジのチョコを各1枚、ラムレーズンのチョコを3個買うことにした。重さを量りココアと合計した金額は、有名な高級チョコレートに匹敵するお値段だった。そのときは予定外の散財をしてしまったと後悔したのだが、1週間ほど経てこの文を書いているうち、サントメチョコの少し粉っぽい舌触り、ほろ苦さ、そして高貴な香りが口の中の感触として突如蘇った。今まで食べたブランドもんのチョコの味、あれはカカオではなく、クリームやナッツやフルーツや洋酒の味だったのだ。

右端の85番がチョコの店。典型的なリスボンの町並み。
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 はるか遠いアフリカの島国からやってきた混ぜ物のない本物のチョコレート。サントメ・プリンシペのチョコは正にチョコのプリンシペ、王子様である。私のような倹約中の食いしんぼだけでなく、世界中のお金持ちグルメから注目され、サントメ・プリンシペ民主共和国の国民がポルトガルに出稼ぎに来なくても十分生活できるようになるといいのだが。
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by caldoverde | 2008-12-23 03:01 | お菓子・カフェ | Comments(10)
 以前このブログで触れたことがあるが、ポルトガルの芸術の特色はヘタウマだというのが私の持論である。もちろんアカデミックな訓練をつんだ写実的な画風の芸術家も十分存在するが、細部は精密でも遠近法が変だったり、人物のデッサンが狂っていたり、どこか完璧でない作品が多い気がする。リスボンのフロンテイラ宮殿という17世紀の建物はアズレージョで有名だが、見ようによっては上手くない漫画としか言いようのないものが大勢を占めている。
アズレージョ美術館に所蔵されている17世紀のアズレージョ。この動物はいったい?
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18世紀初めのリスボンを描いたパノラミックなアズレージョ。適当な遠近法。
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 これは、ひょっとして食べ物と関係あるのではないかという仮説を私はたてた。7月3日の日記でも言及したが、ポルトガルのお菓子はほとんど卵黄でできている。それは修道院で大量に卵白をシーツや僧服の糊付けに使い、余った黄身は、貴族が寄進した砂糖とともにお菓子作りに費され、その伝統が民間に伝播したからである。それが絵と何の関係があるかと言うと、油絵が主流になる前の西洋絵画の技法は、卵の黄身を使って描くテンペラ画だったからである。フラ・アンジェリコの宗教画やボッティチェリの「春」「ビーナスの誕生」などは、顔料を卵の黄身で溶いた絵の具で描くテンペラ画である。ところがポルトガルでは画材に使う分の黄身まで全てお菓子にして食ってしまったので、絵画が他のヨーロッパの国々に比べて発展しなかったのではないか…というのが、私の「ポルトガル美術花より団子説」である。この説は議論を待つまでもなく否定されるであろうが。

 とにかく、現在もポルトガルのアートは世界の最先端をきっているとは思えないが、そのなんとも言えないとぼけた味わいは、殺伐とした21世紀の社会において、ほっと安らぎをもたらし、ぷっと苦笑を誘い、ガクッと膝を後ろから突かれるような、癒しの桃源郷へ誘ってくれるものである。その代表作をいくつか、ポルトガル製の飴のパッケージに例をとってご覧頂きたいと思う。

「サント・オノフレのど飴」
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 この飴の袋を見たとき、思わず肩を震わせた。会社の創業者だろうか、おじさんが歯の無い口でにかーと笑いながら飴の小袋を手にしている。このおじさんの顔がなんとなく可笑しい上に、手の向きがどうも納得がいかない。右手なのか左手なのか、描かれていない腕はいったいどうなっているのか、さっぱり想像できない。

「ナザレ アルテア蜂蜜のど飴」
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 亀甲紋で様式的に表現された蜂の巣、ボケた植物の写真、印刷のずれた包み紙に包まれたアメ、図鑑のように精密な蜂のイラスト、ダサい文字。統一感のないデザインだ。アメを包む紙に描かれた女性の顔が面白くて、かなり怖い。こんなに大口を開けてセキやクシャミをされたら、半径10m以内にいる人はみな感冒にかかるだろう。
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「ペーニャ 芳香のど飴」
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 中央の水色のアメから立ちのぼる湯気のようなもので、このアメがいかに芳しい香りかを表現しているつもりなのだろうが、私には風呂や温泉しか連想できない。その隣の何かの植物の実、仮面みたいで不気味である。爽やかな、とは形容しがたいデザインである。
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 これらのパッケージに共通しているのは、子供の嗜好を全く考えていないことである。こんな袋の飴がおやつだったら子供は全然嬉しくないだろう。風邪を引いて喉を痛めた時だって、薬と同じくいやいやながらなめるのではないだろうか。スーパーで子供がパッケージに惹かれて親の持つ買い物かごに入れる可能性はほとんどない。ハローキティやポケモンに負けない魅力がサント・オノフレ飴の社長にあるだろうか。いや、これは60歳以上の婦人を購買対象にしているのに違いない。
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by caldoverde | 2008-10-13 06:31 | カルチャー | Comments(5)

マルメラーダ

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 スーパーや八百屋にマルメロが並び始めた。新鮮な果物を人に例えたら、桃は赤ちゃんのほっぺ、サクランボは少女の唇、メロンはセクシーな女性の脚や胸(貧困な想像力にご容赦を)、ではマルメロは…マルメロに例えられて嬉しい人は誰もいないと思う。握りこぶしで洋梨の形を作ったような無骨な姿。見かけは悪くても中身は甘くて美味しいのだろうと思いきや、酸っぱくて生食はできないそうだ。
 そんなマルメロだが、イベリア半島では人々にとても愛されている。「マルメロの陽光」というスペイン映画は、老画家が果実のたわわに実るマルメロの木を一心に描き続けるのを淡々と描いた作品だった。私もマルメロの不思議な形に心惹かれ、鉛筆を取って描いてしまった。
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 マルメロで作ったジャム、マルメラーダはポルトガルで最も一般的なジャムだ。安いペンションの朝食や、大学の学食の定食には、必ずと言っていいほど小さなパッケージ入りの、または薄く切ったマルメラーダがバターとともにだされ、これをカルカッサというスカスカのパンに挟んで食べるのだ。

 ポルトの名所ドン・ルイス橋のたもとのレストラン街、リベイラ地区の河から一本中に入った薄暗い通りにある小さな店で昼食をとった時、デザートに出たのが、ケイジョ・フラメンゴと呼ばれる赤いワックスで覆われたオランダタイプのチーズの上にマルメラーダをのせたものだった。チーズといえば思い出すあの典型的な匂いと味を持つチーズと、山形銘菓「のし梅」にも似た甘酸っぱいマルメロ羊羹の組み合わせという意表をついた取り合わせに衝撃を受けた。日本では想像のつかない食べ方だが、チーズの塩分や匂い、マルメラーダの甘さが適度に中和され、慣れるとやみつきになる秀逸なデザートである。
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 ポルトガルのお菓子屋には、自家製マルメラーダを製造販売しているところがある。中にはオリジナルの陶製の容器入りのものや、注文に応じお客さんが持ち込んだ容器に入れてくれるところもある。可愛いどんぶりのような容器に入ったマルメラーダは甘い物好きへのプレゼントとして喜ばれるに違いない。
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 マルメラーダは容器入りのほかに、つまんで食べられるように一口サイズに切って砂糖をまぶしたものもある。また、ジャムではなく、果物の形とさくっとした歯ごたえを残したコンポートもある。このような製品はグルメショップやポルトガルの国産品だけを扱う専門店にあり、お値段も良い。一方、普通のスーパーにある量産品のマルメラーダは、他のジャムに比べるとずっしり重いが安い。

 昔住んでいた下宿の女主人のマルメラーダ作りを手伝ったことがある。果実の皮をむいてお湯でゆで、柔らかくなったらムーランというハンドルでぐるぐる回す裏越し器でなめらかにし、それに砂糖を加えて煮る、という工程だった。私はむいた皮をゴミ箱に捨てたが、後からマダムにあの皮はどうしたと聞かれて捨てたと答えたら、がっかりされた。マルメロの皮にはペクチンがたくさん含まれ、皮をゆでたお湯に砂糖を加えるとこれまたマルメロゼリーができるのだそうだ。そのときは既にマルメロの皮の上にかなりの地層が形成されていた。
 私は半強制労働が一つ減ったことでほっと胸を撫で下ろした。
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by caldoverde | 2008-10-04 23:56 | 野菜・果物・キノコ | Comments(13)

アラブ菓子

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 私の住むアパートから10分ほど歩くとバロック様式の教会エストレラ大聖堂がある。この辺はリスボン名物の市電28番も通り、教会の向かいはこれまた美しいエストレラ公園になっているので、よく外国人観光客が訪れる。教会と公園の間の市電の通る坂道を下っていくと、国会議事堂に出る。この坂道の両側にはアズレージョ張りの古い建物が並び、小さな店が軒を連ねている。私の好きなのは緑のタイルの可愛い八百屋さん。いつも軒からバナナやらブドウやら色んな野菜や果物を吊るしてとても楽しいディスプレーだ。最近この八百屋の隣のピンクの建物にアラブ菓子の店が開店した。名前はMEL DAS ARÁBIAS (アラビアの蜜)。
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 ウィンドウにはアラブっぽい置物が飾られ、内部は天井が高く広々として高級チョコレート店のような雰囲気だ。宝石店のショーケースのようなカウンターには見慣れない小さなお菓子が並ぶ。どれも100gあたりの値段が記されており、1個から買える。難しいお菓子の名前は、20回唱えても顔と反比例してシワのなくなりつつある脳には記憶できない。
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 いかにも中近東美人のお姉さんが試食に勧めてくれたのは、日本のボンタンアメやきび団子のようなゼリー状のものの中に、胡桃やピスタチオが入った小さなさいころ状のお菓子。主原料はとうもろこしの澱粉らしい。中には舌が痺れるほど甘いものがある。
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 薄く切ったおこしのようなお菓子は、周りはそうめんより細い糸状にした小麦粉の生地を寄せ集め、蜂蜜かシロップで固めたピスタチオナッツや胡桃を包んだもの。チョコレートをかけたさくさくパイの中身は白餡のようなペーストだ。人参、オレンジ、ナッツを羊羹のように固めたお菓子はゆべしにそっくりの味と食感。そしてココナッツを砂糖で固めたような激甘の白い菓子。

 ポルトガルのリンギッサやスペインのフエットという腸詰に良く似た細長い菓子が何種類かある。アラブ菓子はこんな風に細長い棒状に作って切って食べるのだろうか。それにしても本当にソーセージに似ている。
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 これらのお菓子は主にトルコから来ているそうだ。この店で作っている訳ではなく、元々箱詰めにしてあるものをバラして売っているらしい。そのお菓子の詰め合わせは店内の棚にずらりと並んでいる。甘さはポルトガルのお菓子にひけをとらないが、違うのは卵があまり使われていないこと、ナッツやドライフルーツがふんだんに使われていることか。

 こんなにスペースがあるのに喫茶コーナーがない。これは致命的欠陥だ。こんな甘いものを食べたら、コーヒーやお茶を飲みたくなるのに。トルコ式コーヒーやミントティーがあれば、リスボン唯一のアラブカフェとして貴重な存在になるはずなのだが。しかし必ずビカ(エスプレッソコーヒー)はメニューに加えなければならない。でないとポルトガル人は絶対に行かない。世界共通のメニューが建前のマクドナルドも、ポルトガルではビカとパステル・デ・ナタをおいている。私の予感ではこのアラブ菓子店はそう長くは続かないだろう。閉まる前に珍しいものを食べておかなくては。
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by caldoverde | 2008-09-21 02:04 | お菓子・カフェ | Comments(17)

お菓子図鑑

  デザインを学んだリスボンの2人の若者ペドロとリタのユニットPEDRITAが、パステラリア(お菓子屋)で売られている半分ホームメイド半分マスプロダクトのお菓子の図鑑 FABRICO PRÒPRIO を出版した。ポルトガルのどのお菓子屋にもある、気取らない大衆的な焼き菓子を、美しい写真とレイアウトで、原材料を中心とする簡単なレシピとともに紹介したもので、歴史的なカフェ、日本のカステラに関するコラム、エッグタルトことパステル・デ・ナタの地球規模の拡散など興味深い記事もちりばめた、待望の本である。
左のお菓子は「風車」という名前。確かにそうだ。
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  日本では食べ物を扱う店なら商品のそばに名前と金額が誰にでもわかりやすく表示されている。ところがポルトガルのお菓子屋は何もない。ガラスケースの中にお菓子を並べてあるだけ。私は10年ポルトガルに住んでも未だに、あれください、これくださいと指示代名詞を使って買っている。しかしお菓子には銘々名前がある。店のどこかにA4の紙にタイプライターの文字の大きさで印刷された値段表がある。大抵カウンターの奥の壁とか目立たないところに貼られ、文字も小さすぎて読めないし、写真やイラストがあるわけでもないので、毎日のようにコーヒーを飲みお菓子を食べても、何と言う名前のものなのかほとんど知らなかったのだ。この本によって、初めて名前と顔が一致した。
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  この本は普通の本屋には売っていない。リスボンでは以前紹介したレトロ食品を売っている雑貨屋 A VIDA PORTUGUESA (8月22日の日記、www.avidaportuguesa.com 参照)やコメルシオ広場のリスボンのツーリストインフォメーションにあるやや高級なレストラン TERREIRO DO PAÇO、同じくコメルシオ広場の、郵便局の角を曲がった先にあるみやげ物店 ARTESANATO DO TEJO などで扱っている。もしくはインターネットのホームページhttp://fabricoproprio.netで通信販売している。本は店頭で買えば34,90ユーロ、パステラリアでお菓子を持ち帰るときに使う包装紙のようなデザインの紙で包まれている。ポルトガル語と英語で表記されているので、甘いものが好きなポルトガル語を勉強している方には必携の本だ。
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by caldoverde | 2008-07-26 01:57 | お菓子・カフェ | Comments(5)

尼僧の腹、修道士の頭

 近所のカフェに行ったところ、見慣れないお菓子があった。「尼僧の腹」という意味ありげな名前の半月型のパイ状のお菓子で、表面は蜂蜜かジャムで照りがつけてあり、卵とアーモンドと砂糖で作られた餡状のものが入っている。相当甘いことを覚悟し、苦いビッカ(エスプレッソコーヒー)を一緒に頼んだ。親切なカフェのおじさんは食べやすいように半分に切ってくれた。食べてみるとパイ皮はさくさくではなくぽくぽくしている。皮も餡も予想したほど甘くなく、乾燥した黄身餡饅頭といった味わいである。緑茶に合いそうだ。
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 それにしてもなぜ尼僧の腹なのだろうか。その謎は本屋で見つけた「修道院のお菓子」という本でいくらか解明された。昔、修道院では1日当たり6000カロリーにも達する食事が摂られていたそうだ。卵は1日3個、修道院長は4個まで食べることが許された。1日に飲むワインは1人1,5リットル。道理で昔の漫画で描かれる修道士たちは丸々と太っていたわけである。尼さんのお腹は妊婦のごとく大きく膨らんでいたのだろう(実際に王様の子供を宿した尼僧もいた。) 修道院起源のお菓子は大量の卵黄と砂糖が基本である。それにアーモンドの粉や、ジラというかぼちゃのジャムが加わる。香り付けは圧倒的にシナモンが多い。禁欲的なイメージとはうらはらに修道士たちはどんどん太り、虫歯になり、結果、短命であった。私が食べた「尼僧の腹」はダイエット中の尼さんだったようだ。

 尼僧のお腹があるなら、頭のてっぺんを河童のように丸く剃った修道士の頭を連想させるお菓子もある。リスボンのカテドラルのすぐそばの聖アントニオの生家があったとされる場所に同聖人を祀った教会がある。リスボン生まれでイタリアのパドヴァで活躍したこの聖人はポルトガルの人々にとても人気がある。アルファマ地区の古い民家には幼子イエスを抱いた聖アントニオのアズレージョが貼り付けられている。お土産屋には漫画化されたユーモラスな姿の、葬儀屋には美化された見目麗しい聖アントニオをかたどった人形が見られる。
 聖アントニオは紛失物と結婚という切実な願いを聞き届ける聖人なので、教会内には常に熱心に祈りをささげる信者の姿が見られる。異教徒に効果があるかどうかは疑わしいので、せめて聖人にちなんだお菓子を食べてご利益の一分も与ることにしよう。
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 カテドラルや聖アントニオ教会から少し下ったところにカフェがある。そこには聖アントニオのお菓子なるものが売られている。干しブドウの入ったほんのり甘いブリオッシュ生地の丸いパンのてっぺんには修道士の刈り込んだ髪の毛のようなリング状の飾りがあって、その中はジャムで照りがつけられ、周辺にアーモンドのスライスを散らしている。
右が聖アントニオ、左が神様
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 修道女、聖人とくれば、つぎは神様。ポルトガルのどのカフェにもあるパォン・デ・デウス(神様のパン)は丸いパンの上にココナッツをのせて焼いたもので、見た目は日本のメロンパンに似ている。おやつ系菓子パンかと思っていたら、ポルトガル人はこのパンにハムやスライスチーズを挟んで軽い食事にする。名前の由来は知らない。

 このカフェには、今の子供や若い人たちの好みには合わないような、修道院のお菓子の流れを汲んだまっ黄色いデザートも何種類か置いている。従業員はこの道何十年という雰囲気のおじさんたちで、日本ならお寺や神社のそばにある昔ながらの饅頭や団子を売っている頑固職人の店といったところ。雰囲気はゆるいが。
これ一個で卵黄3個は使っていそうなプリン
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材料は卵黄とシロップそして多分オレンジ

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by caldoverde | 2008-07-03 18:06 | お菓子・カフェ | Comments(5)
女性運転士が運転する市電とアールヌーボー調の20世紀初頭の建物
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 私の住んでいるところはリスボンの中心からやや西のほうにあるカンポ・デ・オリークという住宅地である。100年ほど前から開発され、中産階級の人たちが多く住むところだそうだ。ピンクや黄色の中層アパートがびっちりくっつき合って建てられ、建物の1階が店舗や事務所になっているのは典型的なリスボンの町並みだが、ケヤキ並木があり、観光客に人気の市電28番のターミナルがあり、アールヌーボー、アールデコ調の装飾のあるカフェやアパートがあり、近くには白亜のバロック様式の教会エストレーラ大聖堂と20世紀ポストモダン建築の代表作アモレイラス・ショッピングセンターがあり、ありとあらゆる種類の店がそろっていて、住んで便利、散歩して楽しいところである。ただし、犬の糞が多いのと家賃が高いのが難である。

 無数のカフェやレストランがあり、特徴を述べるのが困難な平凡な店もあれば、がんばって差別化を図っている店もある。その中に最近新聞でサクセスストーリーとして紹介された店がある。その名を「世界一美味しいチョコレートケーキ」という。ふざけた名前のその店は市場の向かい側のアパートの1階に数年前にオープンした。建物の角の小さなスペースに椅子とテーブルが2組ほど、そしてケーキを入れるガラスケースがあるだけの小さな店である。

 どんなものか、この名前を見て好奇心で食べに来たのは私だけではあるまい。ところが開店ほやほやの店には、なんと私の他に、遠路はるばる日本からやって来た3人のお客さんもいたのだ。この辺は住宅地なので市電の外は観光客がカメラをぶら下げて歩いているのを見ることはめったにない。強いて興味ある場所をあげれば、文学が好きな人には詩人のペッソーアの記念館とか、タブッキの「レクイエム」に出てくるプラゼーレス墓地とかそんなところか。日本のガイドブックでカンポ・デ・オリーク地区に言及しているものはないだろう。

 ところが、世界一美味しいという噂がもう日本でも広まっているのか、日本人の男性1人と女性2人がすでにこの開店したてのカフェにいる。日本人客第1号になるという私の野望はついえた。無念さを隠し、3人に声をかけると、そのご一行はなんと有名なカステラ屋の社長さんとそのお嬢さん、そして通訳の日系ブラジル人の女性であった。近いうちにポルトガル菓子の喫茶店を新宿のカステラ屋の上に開くので、その研究視察のためにポルトガルに来ているとのことであった。この「世界一美味しい」店のシェフとは外国で行われたお菓子のコンペで知り合ったそうだ。
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 さて問題の「世界一美味しいチョコレートケーキ」であるが、外観は何の飾りもなく表面をチョコで覆っただけのプレーンなものである。有名なウィーンのザッハトルテのようにつやつやの滑らかな磁器を思わせるような仕上げではなく、いかにもポルトガルのお菓子らしく、田舎の楽焼の陶器のような、飾り気のない無骨な様子である。この外観で世界一は難しいと思われる。

 ケーキのコーティングは、パリパリの硬いチョコではなく、とろりと流れるようなチョコレートシロップ。中身はチョコムースとメレンゲが交互に重なっている。台もメレンゲでできている。粗野な外観であるが、実は大変崩れやすい繊細なものである。ふんわりと泡を包んだ、ビロードのように滑らかなムース、サクサクと軽いタッチのメレンゲ、それぞれの層は異なった舌触りが楽しめるが、いずれも瞬く間に口の中で溶けていく。ノーマルとブラックの2種類あり、ノーマルは柔らかなミルクチョコレートのまったり味で、ブラックは濃厚なこってり味である。材料はフランス製の最良の製菓用チョコレートを使っているのだそうだ。しかも粉を使っていない。真のチョコレート好きにはたまらないだろう。

 でも私にとっては何か足りないような気がする。日本の洋菓子は必ず香り付けに洋酒を使うが、ポルトガルの菓子は酒をほとんど使わない。サヴァランでさえ、砂糖のシロップだけで肝心のラム酒は使っていないのでは?と思われる。この「世界一美味しいチョコレートケーキ」もチョコ自体の香りのみで勝負している。それはそれでいいのだが、隠し味にほんのちょっとチョコを引き立てるリキュールかブランデーを加えると良いのだがな・・・と砂糖、ならぬ左党の私は感じる。

 そんなわけで、「世界一美味しいチョコレートケーキ」は私の評価ではポルトガルでは上位十位の中に入るかもしれないが、1位かどうかはちと微妙。そして世界中のチョコレートケーキの中でトップに位置するのは、やはり日本の菓子職人の作るケーキではなかろうか。

 この大胆不敵なネーミングは、すでに長年レストランや厨房用品店を経営しているオーナーが、初めは冗談だったが、一度聞いたら絶対忘れないインパクトがあるということに気づきこの名前にしたそうだ。目論見は当たり、今ではこの小さい店での小売ばかりでなく、沢山のレストランにチョコケーキを卸している。クリスマスにはホールのケーキの注文に追われ、そして最近ブラジルのサン・パウロにも支店を出した。

 ところで開店当時、視察に来ていたカステラ屋さんは後にポルトガル菓子店を開き、私も立ち寄ったことがある。パステル・デ・ナタなどはかなりオリジナルに近く、味もなかなか良かったが、残念ながら閉店してしまった。
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by caldoverde | 2007-08-30 22:44 | お菓子・カフェ | Comments(4)