セトゥーバルの市場にはリスボンの市場やスーパーにはないような魚介類が多種あるが、レストランのメニューはそれほどではなく、名物のモンゴウイカのフライばかりが大手を振っている。港町ならではの新鮮な魚の炭火焼が食べたいと思いつつGoogle地図を探したら、その名も「Casa do Peixe (魚の家)」というレストランを見つけた。海からはやや離れた普通の住宅街にあるその店は、まさに昔の漁師の家らしい白壁の平家建ての建物である。中に入ると室内の席と、塀に囲まれた中庭の席があり、中庭の方は手作り風の装飾とチープなプラスチックの椅子がモグリの店っぽい雰囲気を醸し出している。
ガラスケースの中には色々な魚が並んでいるが、1人で食べ切れる大きさのものは自ずと限定され、特に珍しくはないイカを選んだ。イカが焼き上がるまでの前菜として、パン、フレッシュチーズ、ニシンのサラダ、オリーブなどがやって来る。パンやチーズを食べるとお腹が膨れるのでパスするが、どうにも気になるのがニシンのサラダ。玉ねぎやニンニク、香草を散らしたオリーブオイル漬けニシンの誘惑に抗うのは難しい。陶器のカラフに入ったヴィーニョ・ヴェルデの良いお供である。どんぶり鉢に入った野菜サラダは2~3人でもシェアできるような量で、大きなスライストマトの下には焼いたピメント、レタス、玉ねぎ、胡瓜がひしめき合っている。
輪切りにされたイカもたっぷり玉ねぎやニンニクのみじん切りがまぶしてあり、オリーブオイルをかけて食べる。焼き具合はミディアムといったところだろうか、火は通っているが柔らかい。実は私は焦げたくらいの方が好きなのだが、既に輪切りにしてあるので更に焼いてもらうのは叶わない。しかし新鮮なので十分に美味しい。そのうち醤油と味醂を持参してイカの照り焼きを作ってもらえないものかとも考えている。この日は全部で25€位だった。
別の日は舌ビラメを注文した。本当はカサゴ系の赤い魚のカンタリルが食べたかったのだが、約1kgと1人では食べきれない大きさでしかも高価な魚なので諦め、すぐに焼き上がるであろう舌ビラメにした。メニューには魚の1kg当たりの値段が記されているが、季節によって変わるだろうし、個体によっても重さが異なるので、値段は考えないことにした。香ばしく焼けた皮に塩をふいた舌ビラメは淡白で美味である。これもやはりシンプルにオリーブオイルでいただく。
食事の〆は洋梨のワイン煮で。ミントやシナモンスティックをあしらったお店お勧めのデザート。さて気になるお勘定は… ワイン500ml、ニシンのサラダ、ミックスサラダ、舌ビラメ、デザート、コーヒー、しめて41€也。昼食にしては、港町にしては、この普請にしては、ちょっと高い気がしたが、昔やや高級なレストランで舌ビラメを食べた時は60€だった事を思えば妥当な値段か。今時手書きの勘定書きを持ってくるということは、多分脱税しているのだろう。それならとこっちは納税者番号NIF(マイナンバー)入りの領収書を請求した。NIF入りの領収書は年に2回ほど税務署が抽選を行い、NIFの名義者に車やお金が当たるのだ。今度はちゃんとレジで打たれた領収書に、頼んでもいない飲物やパンやパテやその他諸々が入っており、49.50€になっているので抗議しようとしたら、さっきの金額でいいよと言われた。気を遣ってくれてありがとう、でも残念ながらこのランチは経費には計上しないのよ。それにしてもこの店の脱税やモグリの疑いは少しずつ確信に変わっていった。領収書には一番上に「認証されていない書式」と書かれている。この領収書は税務署のくじ引きの対象にはならないようだ。