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ポルトガルの食べ物、生活、観光情報


by caldoverde
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廃駅の謎と鯉の家

 カステロ・デ・ヴィーデに着いた日は復活祭、翌日はこの村だけの休日だった。役所や金融機関は4連休になる。路線バスも運休だ。村に2つしかないATMは空っぽになり、私は手持ちの現金15ユーロの範囲内で1日を過ごさなくてはならない。予定していたマルヴァン行きは明日に延期となった。

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 昔、カステロ・デ・ヴィーデから電車でリスボンに移動したことがある。その頃はリュックを担いで「地球の歩き方」を手にして旅をする若者が今よりも多かった。日本の鉄道の便利さや快適さに慣れていた日本人は鉄道を使いたがった。私もそうだった。ポルトガル鉄道(CP)の薄っぺらい時刻表を買い、ダイヤを調べ、乗り換えの駅や休日の運休なども良く確認したつもりだった。しかし駅の周りの環境は地図でおおよその位置が分かるのみで、実際に駅に到着すると愕然とすることがよくあった。町から数km時には10km以上離れた、野原あるいは山の中にある。周囲には店はおろか人家も人影も見当たらない。駅はもちろん無人駅。タクシーを呼ぼうにも公衆電話もない。

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 確かカステロ・デ・ヴィーデ駅もそんな所だった。村人が駅まで10分か15分だと言ったその言葉を信じ、ゆっくり景色を見たり、切符を買う時間の余裕も持たせて1時間前に村を出た。この道を真っ直ぐ行けばいいという言葉に従って。行けども行けども畑ばかりでそれらしい建物も線路も見えてこない。4~50分歩いてようやく道の脇に「駅」という看板が現れた。そこから先は草の生い茂る車のわだち跡のような細い道だった。草を踏み分けて進むとやっと線路があらわれ、数百メートル先に小さな1両の電車が止まっていた。もう出発時刻は過ぎていた。この電車を逃したらその日じゅうにリスボンに帰れない。駅員に手を降りながら線路を必死で走って電車に乗ることが出来た。

 今となっては笑い話だが、村人は駅まで「車で」15分と言ったつもりを私は「歩いて」15分と解釈したのだった。あの時は焦って駅の建物に目をやる余裕はなかったので、どんな駅舎でどんな場所にあったのか確かめたくなった。ゲストハウスのマダムによるとCPカステロ・デ・ヴィーデ駅は今は使われていない。しかし建物はとても綺麗なアズレージョで飾られているという。お昼を食べたら車で連れて行ってあげるというありがたい申し出を受けたが、結果的に自力で行くことができた。

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カステロ・デ・ヴィーデの風景を描いた美しいアズレージョと針のない時計

 途中までの国道は昔に比べ拡張され整備されたようだ。しかし廃線となった鉄道駅に向かう道は、通る車も殆どなく、もちろんすれ違う人も皆無だった。
 何もない草ぼうぼうの原っぱの中と記憶していたが、駅の近くに家がある。犬が数匹いて人が住んでいるのは確かだが、人の気配はなかった。なぜか「いらっしゃいませ」という看板が付けられている。ペンションだったのだろうか。庭先に牛の頭蓋骨が2つ置かれ、塀の上には置物が並べられ、畑の中に立てられたカカシは女の子のマネキン人形で、Tシャツを着せられズボンがずり落ちた状態になっている。非常に嫌な感じの薄気味悪い家だ。庭に煤で黒ずんだかまどみたいなものがありその上に花が置かれている。ヤバイ。この家は若い男女が行方不明となっている「ゴブリン王」事件の被疑者の家の雰囲気に似ていて気持ちが悪くなった。この辺りで電車で来た旅行者が行方不明になったという事件はなかったろうか?
ノスタルジーは恐怖に変わった。

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 それにしてもCPがこのような場所に駅を作ったのはいかなる理由や目的があったのか。人目についてはまずいものを運搬していたのだろうか。それならばこんな辺鄙な場所の駅や信じられない不便なダイヤ、町までのアクセスがない事に納得がゆく。

 何かが起こっても誰にもさとられそうにない場所から、無事にゲストハウスVILA MARIAに生還できた。村からは900m離れているが、庭からの眺めが素晴らしく、朝食も豪華でインターネットのホテル予約サイトでは老舗のホテルを抑えて最高の評価を受けている。女主人は気さくでとても親切だ。実は彼女は、昨日私が羊のモツスープを食べたレストランの経営者だったが、数年前に辞めて、古い家を購入し改装してこのゲストハウスを開いた。インテリアや備品にはもてなし好きのマダムの心遣いがすみずみ行き渡った素敵な宿だった。おやつや朝食に出されたケーキも彼女のお手製である。

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サン・マメーデ山系が目前に
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セーラ・ダ・エストレーラ犬のオスカー君
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食べ切れない朝食付きで1泊30ユーロだった
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ベッドの上にはポルトガルの山岳地方で作られる手織りの毛布

 夕食は村からゲストハウスに向かう街道の途中にある「CASA DAS CARPAS(鯉の家)」というレストランでアシガンという淡水魚のグリルを頼んだ。頼んだ後インターネットで調べると英名ブラックバスだった。少し後悔した。生態系を壊す犯人と見なされているブラックバスは、日本料理の板前さんにはまな板が臭くなると不評だ。この地方の料理によく使われるポエージョという香草のソース添えのブラックバスの塩焼きやいかに?

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「ええっ」と思わず声が出た。開いて凄い大きさになった魚と茹でジャガイモがオリーブオイルと香草とニンニクの緑色のソースにドップリ浸かっている。店の親父はニヤリと笑い「全部食べろ」と言い捨てた。
はっきり言って…美味い!魚は淡白で心配していた泥臭さはない。時折カリッと歯に当たる粗塩が味を引き締める。香草とニンニクをたっぷり使ったソースは魚の臭みをカバーするのみならず、ボイルしたジャガイモにつけて食べるとこれもまたやめられない美味しさ。
 ブラックバスに対する偏見が払拭された一品だった。

Commented by おっちゃん at 2012-04-16 15:30 x
日本人女性ポルトガルで行方不明 とならずによかったです。
ブラックバスは淡泊なので、唐揚げが旨いそうですよ。
Commented by OvosMoles at 2012-04-16 19:49 x
そうか、ブラックバスおいしかったのね。でも、ニンニク&香草たっぷり使わないとやっぱり臭いってこと? 早くAlquevaに行ってブラックバス釣りしたいなぁ。ゲストハウスの写真は撮ってないんですか。部屋とか見たかったかも。
Commented by caldoverde at 2012-04-16 22:27
ブラックバスは皮が臭いようで、焼くと問題ないです。ついでにポルトガルの魚、特にイワシのうろこをとらないのは、焼く時たっぷり塩を振るので、うろこを取ってしまうと塩辛くなりすぎるからだそうです。
リクエストにお答えしてゲストハウスの写真をアップ。でもあの怪しい家のカカシは載せる勇気が出ないです。
Commented by jojo at 2012-04-19 18:03 x
アシガン、前行ったレストランで食べたっしょー。Gaviaoの。あそこは普通に焼いて出てくるだけだけど。しかしブラックバスなんだ。知らなかった。決して安くないし、あの辺りではみんな普通に食べてるもんね。川魚と言って(って川魚なんだけどさ)。
Commented by Moreia at 2012-04-21 01:41 x
ひょっとしたら夜のニュースに出てたかもしれないのね?(コワ~)
その家はね、きっと「注文の多い料理店」だったかもwww
アシガン、姑夫婦に連れられてどっかのダム近くにわざわざ食べにいったよ。綺麗な水にすんでるせいか美味しかった記憶が。
Commented by caldoverde at 2012-04-21 04:44
鮎や岩魚はポルトガルにいないのかなあ?
昔ブラガンサの貴族の館を改装したレストランで、マスに生ハムを挟んた料理を食べました。味はあまり覚えてないけど、上品なマダムと豪奢な内装が印象的でした。
by caldoverde | 2012-04-17 00:51 | ポルトガルの旅 | Comments(6)