テージョ河アート散歩 その3 エキスポ編
2012年 12月 03日
エキスポ地区から伸びるヴァスコ・ダ・ガマ橋。
1998年開通、長さ17km。
リスボンの風景と言えば一般的に思い浮かべるのは、サン・ジョルジェ城やカテドラルの周りをびっしり取り囲む古い家並み、下町を走るチンチン電車、「消臭力」のあのCMのイメージだろうが、実はSF映画の背景にそのまま使えそうな、モダン建築の集積した場所もある。1998年にリスボン万博の会場となったエキスポ地区だ。この年に私はポルトガルに住むようになり、万博にも2度ほど行ったが、日陰を作る並木もないだだっ広い会場を、何百メートルも歩いてパビリオンを移動し、炎天下の中長い列をなして入館を待つのは本当にうんざりした。もう2度と来たくないと思った。
しかし14年後の現在は緑も多くなり、川沿いの遊歩道もだいぶ整備され、散歩やジョギング、サイクリングはかなり快適になった。そして万博終了後も生き残った建物は、空と水という広大なスケールの自然の中で、その独創的なデザインと素材の可能性を追求した人工美を際立たせている。
どの建物も、プロジェクトの時点ですでに工期の大幅な延長や予算オーバーが見込まれていたんじゃないかと想像する。事実、誰もが1998年に無事に万博が開かれるのを危ぶんでいた。とんがり帽子の高級マンションは、万博と同時に完売を予想していたのだろうが、その後もだらだらと工事は続いていた。
美しさを追求するあまり、全然実用的じゃない建物も結構ある。オリエント駅のホームの白い林のような優美な屋根は、夏は灼熱の太陽を、冬は冷たい雨を、時には吹き荒れる風を列車を待つ乗客に受け止めさせる。世界的な建築家アルヴァロ・シザ設計の薄いコンクリート板を布のように吊り下げた建物の下で、私はどうも休む気になれない。面白い凹凸のついたビルは携帯電話会社のオフィスだが、なんか無駄なような…
しかし、建物が巨大な野外彫刻だと考えると、一見無駄に思える空間や装飾の中に、ゆとり、ユーモア、清潔感、緊張感、躍動感、静謐さといったものが見て取れ、経済面ばかりを追求したコンクリートや洗面所を思わせるタイルを使った20世紀半ばの建物よりはよっぽど楽しめる。
エキスポ地区は20世紀末のポルトガルの遺産として、未来に受け継ぐことができるだろうか。
しかしマンボウはもういない。