ポルトガルの食べ物、生活、観光情報


by caldoverde
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リスボンを聞く

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帰省中の仙台で、リスボンを舞台とした映画を見る機会があった。ポーランドの監督による「イマジン」は、英国、ルーマニア、ポルトガルのキャストで、全編リスボンで撮影が行われた。ドラマチックな展開や、情熱的なシーンがある訳でない、どちらかというと地味な映画だが、ジワジワ来るものがある。観光地として有名なアルファマ地区やバイシャ地区、名物の市電28番が頻繁に登場するが、それらはポルトガルの旅に誘う魅力的な風景としてではなく、生死を分かつ危険をはらんだ戦場のような所として扱われている。主人公たちは何があるのか、何が起こるのかわからない戦場への冒険を試みる。

この映画の主な舞台は、リスボンのとある盲学校である。白い塀に囲まれた、古い修道院の建物を借りた盲学校兼クリニックに、全盲のイギリス人の助手が赴任する。彼は、指や舌を鳴らし、その反響音によって、周囲にどんなものがあるか知ることのできる「反響定位」というテクニックで、白杖を使わずに歩くことを試みる男だ。

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責任者の医師は、生徒を決して危険に晒さないように指導することを、厳しく英国人助手に言い渡す。はじめ生徒たちは杖を使わないで歩くこの男を信用せず、実は目が見えるのではないかと様々なイタズラを仕掛けるが、次第に心を開き始め、外の世界を知りたいと願うようになる。

ある日、英国人助手は隣の部屋の美しいドイツ人女性と健常者同士のカップルを装い、杖なしで街に繰り出す。下町のバールの、地元の老人や観光客やボーイとのたわいない会話から、彼女は塀の外の未知の世界へと想像の翼を羽ばたかせる。

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教会の鐘の反響を聞いて、大きな船が来ていることを知った英国人助手は、生徒の一人と共に夜の港に出かける。彼らは一歩間違えば海に落ちる岸壁ギリギリに沿って歩きながら、正確に船を探しあてるが、小石を投げながら歩く2人の男を不審に思った警官によって連行される。

白杖を使わないことによって自らも幾度も怪我をし、生徒にとって危険だと判断された英国人助手は、盲学校を去る。塀の外に出た助手を、ドイツ人女性が杖なしで追う。車や市電が行き交う段差のある道を横断し、歩道に設置された変圧器や鉄棒などの様々な障害物を避けながら、彼女は英国人助手とコーヒーを飲んだ階段下のカフェに行き着く。古いアパートの建て込む狭い路地の向こうに、リスボンを出港する巨大な船が横切っていく。教会の鐘が鳴り響く。市電の警笛も、車の騒音も、人の話し声も石畳の道に響き、反響する。すぐそばのテーブルには追っていた英国人助手が…

映画の宣伝では、盲目の男女のロマンスとして扱われているが、私には目の見えない人々の知覚が捉える世界を、そして私たちにとってごく普通の環境が、彼らにはいかに過酷で危険であるかを、垣間見ることのできる興味深い作品だった。
盲目=闇というイメージは、舞台となる修道院の真っ白い壁や眩しすぎるリスボンの陽光によって揺らぐ。視覚を持たずに生まれてきた人々の、意外なほどの敏捷さや鋭敏さ。音に集中することで様々なものが形をなすという驚き。「見える人は見ようとしない」主人公の英国人助手の言葉は示唆に富む。時には「目を閉じて」何かを見ようと試みるのも大事なことだ。

オフィシャルサイト http://mermaidfilms.co.jp/imagine/

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Commented by pato at 2015-08-19 07:36 x
うむ、20歳の時に藪医者に「10年後には聴力を失う」宣言を受けた私はそれから色々シミュレートするようになったんだけど。
なんで藪医者と言うかと言えば30年近く経ってもよく聴こえてるからです。
Commented by caldoverde at 2015-08-19 08:49
私は前住んでいたアパートの騒音のストレスで今も耳鳴りです。
町内に盲学校があり、街でも盲人の方々を見ますが、リスボンは構造的に危ない場所が多い。手すりやガードレールがない。点字タイルも少ない。でもスイスイと歩き、乗り物にも乗っている。周りの人も席を譲ったり、どのバスで行くのか聞いたり、よく助けています。
そのような点では、歩きやすいのかな。
by caldoverde | 2015-08-05 21:31 | カルチャー | Comments(2)