悲しいニュース
2018年 10月 11日
リスボンから車で約40分のシントラ山脈は自然公園として豊かな森と美しい海岸線を誇っていたのだが、10月6日の夜、麓の村で火の手が上がり、強風で瞬く間に延焼し、何と600ヘクタールもの野原が灰になった。この辺りはロカ岬やカスカイスに向かう街道があり、頻繁に観光バスやマイカーが行き交う風光明媚な観光ルートだが、一晩で無残な黒い炭の山となった。
今回の火事はイベントで違法に打ち上げられた花火が原因らしい。海や川ならともかく乾ききった枯れ草や燃え広がりやすい灌木の多い場所で花火とは、バカですか?
焼け焦げた土地にさっそく「売ります」の看板が出現したそうだ。シントラ・カスカイス国定公園は自然保護区として建物は建てられないはず。なのにしばしば火事が起きてはその後に小綺麗な住宅が建設される。ほとんどの山火事の原因は人為的なものだ。開発しやすいように、あるいは保険金目的で。
しかし当局は全く無策のように見える。だいたいシントラ市長が建築できない土地に家を建てて議会から取り壊し命令が出され、未だに執行されていないような国だ。全然信用できない。それでも今回の火事で、カスカイス市長は今後10年間は焼けた原野には建築を許可しないという法令を下した。市長が替われば期間も変わる可能性大であるが。
日本では放火は重罪だが、ポルトガルには死刑がなく、軽微?な犯罪者はすぐに娑婆に出られる。やる気のなさそうな警察や装備や人材不足の消防署が、犯罪を野放しにして被害を拡大させている。そしてその陰には汚職があるに違いないのだが…
ここ2、3年は空前のポルトガルブームで、観光客や移住者が急増しバブルの様相を呈している。残念ながらリスボンやポルトには次第に素朴さやゆったりした雰囲気がなくなりつつある。旧市街の住宅は民泊に、名所旧蹟は大行列、道路は路上駐車場と化し動脈硬化を起こしている。街から伝統ある店が次々と姿を消し、ありふれた洋服屋とファストフード店とどうでも良い雑貨店に代わっている。建物や乗物には汚い落書き。初めて訪れた人にはまだまだ十分に魅力的だと思うが、このままではやばい。
サンチャゴ・デ・コンポステラを訪れた時、市の清掃局員だろうか、ミラーのポールに貼られたシールかガムを薬品で除去している人を見た。さすが街全体が世界遺産だけあると感心した。少しのゴミでも放置すればやがてはゴミ捨て場と認識されていく。落書きも誰か一人描けば増える一方だ。ニューヨークでは後を絶たない落書きを根気よく消していくことによって犯罪率が減少したと言う。ポルトガルも観光客におもねるよりも自分の足元をしっかりと固めるべきだと思う。