大いなる休暇
2020年 03月 25日
2月9日にポルトガルを出国し、ドーハ経由で東京に着いた頃はまだリスボン空港も羽田空港も心浮き立つ人々で賑わっていた。しかしどの旅行会社のツアー客だろうか、服や帽子に日の丸のバッジを付けていた家族がいた。帰国前に一緒に仕事をした男性添乗員はヨーロッパの某国でコロナウィルスに関連し不愉快な思いをしたと憤慨していたので、この家族あるいはツアーはアジア人に対する偏見差別対策を取っているんだろうなと思った。
3月初めまでポルトガルは感染者が一桁だったが、やはり増加のスピードは加速し、スペインの惨状を目の当たりにして国境を封鎖した。宿敵であり兄弟でもあるスペインとの行き来をほぼ遮断するのはイベリア半島の歴史でも稀な事だ。二つの国は北西はミーニョ川、北東はドウロ河、中部はテージョ河、南部はグァデアナ河が部分的に国境をなしている。もし国境が全て陸続きだったら、感染者の数はもっと増大していただろう。
ポルトガルもイタリア、スペインと同様に、人と人との距離が近く、挨拶は身体的接触を伴う。お喋りが大好きで、家族を大事にする。衛生面はかなりおおらかで、医療体制は日本に比べると脆弱な印象を受ける。中国との結びつきは特に近年益々密接になっている。いつアウトブレイクが起きても不思議ではない。
ポルトガルにおけるコロナ対策はEU諸国に準ずる。非常事態宣言下で、国民は自宅待機が求められ、イベント、映画館などは興行中止、飲食店や商店の営業制限、学校などの公共施設の休業、など戦時中のような状況らしい。らしい、と言うのは3月中にリスボンに戻る予定だったが、あっという間に日本から出るのも、ポルトガルに入るのも難しくなり、取りあえず仙台に居ることにしたからである。ポルトガルも観光立国でインバウンド頼りだったから経済産業への影響は計り知れない。私も観光ガイドとして生計を立てていたので、今年の収入はほぼ諦めた。
このタイミングで再版されたのはポルトガルのノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの「白の闇」。ある日突然視界が真っ白になり何も見えなくなる病が発生し、ヒト-ヒト感染により瞬く間に街中に蔓延する。当局は軍を出動させ、感染者を収容所に隔離するが、そこでは人間のエゴが剥き出しとなる地獄絵図が繰り広げられる。酸鼻極まる描写は第二次大戦のユダヤ人収容所、ひょっとすると武漢の臨時病院もかくやと思わせる。
明けない夜はなく、どんな嵐も必ず過ぎ去り、青空がまたやって来る。状況を嘆くばかりではなく、これを機に家族、地域との繋がりを見直し、連帯を深める良い機会とし、自宅待機で生じた時間を新たな創造を生み出す原動力になればと願う。有名観光地のひと気の無い通りやモニュメントの映像は、改めてその美を世界中に知らしめ、病禍が収まればぜひ行ってみたいと強く印象づけるだろう。




