リスボンを眺めながら鶏雑炊と畑の大魚を食す
2022年 05月 20日
カイス・ド・ソドレのフェリー乗り場から、小汚い船に乗って対岸のカシーリャスに渡る。降りるとすぐに小綺麗なレストランがある。河に面したガラス張りの、クロスのかかったテーブルが並ぶ高級そうな店構え。でも昔はリスボンでの仕事を終えた労働者が家に帰る前に1杯引っ掛けるバールだったのではないかと想像する。そのレストランを横目に、テージョ河に釣り糸を垂れる地元民を見ながら川沿いを歩くと、落書きだらけの廃墟となった工場が続き、やがて岸壁にテーブルを広げたレストラン「ポント・フィナル」が現れる。ここからの眺めはどんな食べ物も味がグレードアップする。だから元工場の建物自体はあまり問題ではない。リスボンから20分という立地の良さもあってか、平日の12時半の開店時にはすでに行列ができていた。
メニューは私基準でどれもやや高めだが、注文を聞きに来た女性支配人によると、2〜3人前はあるという。5人グループなので、数種類の前菜を頼んで分けようかという案も出たが、前菜からして結構な量があると警告されたので、まずはタコサラダと殻付きエビの炒めものをオーダーした。エビは1人前のメインディッシュとしても十分すぎる数があり、サラダやエビの油をパンにつけて食べるとこれまた美味いので、セーブしつつメインディッシュを何にするか決めなくてはならない。初めはそれぞれ自分の食べたいものを注文するつもりだったが、1人1品は絶対に多いので、肉、野菜、魚からそれぞれ1つづつ選び、皆でシェアすることにした。
最初に到着したのは、血とワインで煮た鶏のリゾット、アロース・デ・カビデーラだ。見かけの不気味さとは反比例して、ご飯は鶏の旨味にワインの酸味が効いたさっぱりとした味わい。よく煮込まれた骨付きの鶏肉は、ほろりと外れて柔らかい。
次にやってきたのはヴェジタリアンメニューのペイシーニョ・デ・オルタ(畑の小魚)。魚ではなくモロッコインゲンの天ぷらとトマトリゾットの組み合わせである。結構な長さのインゲン豆はもはや小魚とは言えない。これだけの量があれば、野菜だけでも力が十分につきそうである。熱々の天ぷらは冷たいビールやヴィーニョ・ベルデの良いお供である。
タコサラダやエビの前菜も残っているが、まだバカリャウを焼いて裂いた料理が来ていない。どのテーブルも埋まり、従業員は忙しく働いている。ひょっとして厨房にオーダーが入っていないのか、注文が殺到して時間がかかっているのか。しかし幸いなことに我々5人のお腹は既にいっぱいとなり、まだ来ない料理に苛立つ人はなく、全ての皿をきれいに平らげてコーヒーを頼むことにした。ところが断水してコーヒーが出せないという。河を目の前にしながら水がないというのは店にとって痛恨の極みである。また私らにとってもトイレが使えないのは大問題なので、早々にリスボンにもどることにした。
この店で夜景を見ながらのディナーも素晴らしいに違いない。残念なのは私のようなおひとりさま向きではないことと、リーズナブルなハウスワインがなく、フルボトルかハーフボトルのみでグラスでは注文できないということだ。川向こうの町は今もリスボンのベッドタウンではあるが、レストランは地元民から観光客にターゲットを変えつつある。労働者や釣り人たちの喉の渇きをいやし、小腹を満たすものを提供する、庶民的な店がまだあると良いのだが。







