機械製パンVS手作りパン
2022年 08月 26日
今は機械を使わずにパンを作っているパン屋はほとんど無いだろうが、100年前は画期的な事だった。カンポ・デ・オリーク通りの一番端、レストラン「カーザ・ドス・パッサリーニョス」の向かいにアズレージョの剥げまくったボロい建物があるが、それこそがリスボン市から「歴史のある店」として認定された「パニフィカサォン・メカニカ」(機械製パン)という名の店舗兼工場なのだ。
創業は1902年で、全ての工程が機械化されたリスボンで最初のパン屋である。それ以前は石臼で挽いた粉を手で捏ねて、温度や湿度の具合を勘と経験ではかり発酵させ、できた生地は薪オーブンで焼いていた。それらの工程が機械で行われるようになれば、いつも同じ品質のパンやお菓子を大量に作ることができる。産業革命だ。工場で量産された製品は、市内のカフェや食品店、レストランなどに卸され、今のリスボンのパンやお菓子の味の基盤を形成していったのだろう。
したがって工場直送という点以外には特に突出した特徴のない、普通の味であるが、現在リスボンの飲食業はかなりの勢いで多様化、オシャレ化しているので、このようなベタな伝統的なパンやお菓子を作っている店は逆に新鮮に感じる。しかも値段も伝統的である。昨今インフレの波がポルトガルにも押し寄せているが、このような昔からある店はまだ昔の値段でやっている。(いずれ値上がりするのだろうが) 甘いものが欲しくなってこの店でチーズケーキを一切れテイクアウトしたら、1.50€だった。予想より安かったので節約中の身には大変ありがたい。椅子付きのテーブルは2つだけ、塞がっていれば立って食べるかテイクアウトになるが、サンドイッチや昼定食もある。朝は7時から営業していて、通勤途中に朝食を食べに立ち寄るお客さんも多い事だろう。
安くて新鮮なパンやお菓子以上に、この店を特徴づけているのは、その内装である。19世紀末から20世紀初めにヨーロッパで流行したアール・ヌーヴォーの波は、ブルジョアのお屋敷のみならず、工場や公共施設にも及んだ。カンポ・デ・オリーク地区にはいくつかの有名なアール・ヌーヴォー建築があり、この機械式製パン社もそのうちの一つである。現在もキャベツ皿などで有名なボルダロ・ピニェイロ社の自然をモチーフにしたアズレージョや豪華なシャンデリア、アンティークな木製の家具などは、崩れかかった外壁とは対照的によく保存され、建築デザインに興味のある方には一見の価値がある。
それとは対照的に、全ての工程を昔ながらの伝統的な方法でパンを作っているのがグレバ Gleba(耕作地、故郷)というパン屋。ロゴマークは穀物を粉にする挽臼をイメージしたもので、実際に石臼で挽いた粉を使っているそうだ。原料の粉は100%国産で、天然酵母で発酵させ、焼き上げたパンはどっしり重く、噛みごたえがある。アルカンタラ地区の小さな店から始まったグレバは、店舗を増やし、デパートやショッピングセンターでも購入できるようになった。若い世代によるマーケティングが成功した好例だが、あまりにも急に拡大しているので、飽きられないかちょっと心配である。









