甕ワイン
2024年 12月 27日
アレンテージョ地方では、ローマ時代の製法を今に伝える、素焼きの甕で醸造するワインが生産されている。そういえば大きな店のワインコーナーに行くと、壺の絵が描かれたラベルのワインを時々見かけたが、そういう事だったのかと気付いたのはごく最近である。以前訪れたベージャの食堂やエストレモスの居酒屋にも大きな甕があったが、あれでワインを作るとは思いもよらず(水瓶だと思った)田舎の雰囲気を出すための装飾だろうとしか認識していなかった。もし知っていたら木樽やステンレスのタンクで作るワインとどう違うのか気をつけて飲むんだったが。
リスボンからバスで3時間弱のヴィディゲイラと近隣のヴィラ・デ・フラーデスという小さな2つの村は甕ワイン(ヴィーニョ・ダ・ターリャ)の中心地で、甕ワインを紹介するミュージアムや甕ワインを出すレストランのリストがある。ヴィディゲイラのバス停留所のすぐそばに造り酒屋があり、無料で内部を見学させてくれる。中世の教会のようなアーチの重なる空間に整列する大甕は圧巻である。表から想像するよりもかなり広く、奥には試飲コーナーもある。2025年からは食事もできるそうだ。今年の出来たてのワインを試飲させて頂いたが、発酵途中のガスの入った酸味のある素朴な味わいで、北部のヴィーニョ・ヴェルデの赤に似ている。これはこれで美味しいが、熟成すればガスが消えて滑らかな舌触りと角の取れた酸味になるのだろう。
ヴィディゲイラから2kmほどのヴィラ・デ・フラーデス(修道士の村)という小さな集落にも立派なワイン博物館があり、甕ワインの製法を詳しく紹介してくれる。入場料は2€だが3.50€出すとワインの試飲ができる。残念ながら時間がなくて見学できなかったが、村の近くにはローマ時代の遺跡があり、そこで甕ワインが造られていた。中世にはキリスト教の修道院が建立され、ヴィラ・デ・フラーデスという地名の由来となった。よくスーパーにも同名の銘柄のワインが売られているが、安いのは近代的な製法で、高いのは伝統的な甕で造られたものだろう。博物館では白とロゼの2種類を試飲させてもらった。白はハチミツの様な香りと甘みを感じる華やかなワイン、ロゼは赤白のブドウを使ったシャープな辛口ワイン。ちょうど昼時で閉館時間となったので、村のレストランでお昼を取ることにした。
小さな村はひと気もなく、冬の間は閉める飲食店もあるのだろう、営業しているのは博物館の隣の店だけだ。アレンテージョ料理を食べるつもりが、その日は木曜日で全国的にコジード・ア・ポルトゲーザの日なのでコジードを注文した。きっと地元の腸詰と豚肉が使われているはずだ。ワインはもちろん甕ワイン。店の女の子はまず試飲して気に入ったら注文して下さい、と小さなコップに注いだ赤ワインを持って来た。ごく普通のハウスワインで断る理由もない。リスボンのコジードは豚肉の他に牛肉や鶏肉、煮汁で炊いた豆や米も付くのだが、この店のコジードは豚肉と腸詰と野菜というシンプルな構成。私は肉より野菜や腸詰の方が好きなので丁度良い量だった。普段はパスするデザートもこの店のオリジナルであれば別腹だ。またヴィディゲイラやヴィラ・デ・フラーデスを訪れる機会があれば、地元のチョリソーや生ハム、チーズと共に、数ヶ所のワイナリーの色んな種類の甕ワインを試してみたい。
わたくしごとながら諸般の事情で旅行延期中。ああ旅妄想で爆死しそう。








