ポルトガルの食べ物、生活、観光情報


by caldoverde
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ワインの腸詰

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 絶対普通の日本人の団体旅行の食事では出ないが、げてものを食うツアーになら出されるかもしれないものに、この腸詰が挙げられる。これはリスボン市内のあまり高級ではないアパートが立て込むダサい住宅地のどんづまりの、ある大衆食堂のある日のお勧めメニューである。この食堂では主人の出身であるベイラ地方の郷土料理が時たま登場する。いや料理というより、その土地で作られている食べ物をただ出すといったほうが良いか。ベイラ地方の名産は肉の加工品である。で、その日はラメゴ産のモイラという名前のワインレッドの長さ30cmくらいの腸詰だった。それをゆでて、多分同じ鍋に一緒に放り込まれ、ばらばらに崩れる寸前まで軟らかく茹でられたブロッコリーとどんなに茹でても煮崩れないジャガイモが何の芸もなく添えてあるだけだ。ソースも何もない。何年もつらい修行を積まなくとも、誰でも明日から料理店が開けるような究極の簡単メニューだ。

 いや、ひょっとしてそんな単純なものではないかも知れない。しばしば単純に見えるものほど奥が深いものだ。主人が長い経験と勘を頼りに自らの目で確かめた、選りすぐりの腸詰かもしれない。特別に肥育した豚肉と最高級の地酒ワインと、伝統的な秘法で作られた珍味かもしれない。もしくはゆで方にも秘訣があって、特別な構造のなべで、秘密の隠し味を加えたスープで火加減に注意しながら煮なくてはならず、1分でもゆで時間に狂いがあれば、形が崩れたり、味が落ちたりするような、微妙なテクニックを要するものかもしれない。

 そんな思索を巡らせる暇もなく、すぐに「ラメゴ産モイラ」は出てきた。やっぱり手間のかからないものだった。濃い赤紫色の、どてっと皿に横たわった腸詰。そこにはシェフの創意も繊細さも微塵だに感じない。さあ、食え、と言わんばかりにふてぶてしい、開き直った中年女のような腸詰の姿がそこにあった。で、味は。やはり中年女のように脂肪がたっぷりで、熟女のようなまったりしたコクがあり、鮮やかな緑が失われてほとんどべろべろになったブロッコリーといい相性である。無理やりワインレッドのビチビチドレスに体を押し込めたおばさんが腸詰なら、ブロッコリーは白髪が伸びた彼女のパーマ頭だ。これに文字通り自家製のどぶろくハウスワイン、オヤジがバールで立って飲んでるような安ワインを合わせて似合いの夫婦の出来上がり。
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by caldoverde | 2007-04-07 07:02 | 肉料理 | Comments(0)