ポルトガルのりんご
2008年 01月 12日
見た目を気にしなければ桃も梨もブドウもサクランボも味は良いポルトガルの果物だが、これだけは日本のほうが美味しいと自信を持って言えるのがりんごである。こちらにはゴールデン、スターキング、ふじ、グラニースミスなど日本でもおなじみの銘柄のりんごがあり、味はそんなに悪くはないが食感がいただけない。りんごのあのパリッ、シャキッとした歯ごたえがなく、めしゃ~とした、古くなって廃棄処分寸前のりんごのようなふがいない歯ざわりなのだ。指で押すと凹むような、やわなりんごである。ポルトガル人はこんな状態のりんごしか食べたことがないのだろうか。収穫や出荷の時期を間違っているのではないだろうか。りんごが食べたくなって買うとその都度がっかりしたものである。
しかしわずかに、あの特有の歯ざわりに、爽やかな酸味と甘味の調和した、香りの良いポルトガル国産の美味しいりんごがある。それは1年の内でごくわずかな時期に出回る「マッサン・ブラーヴァ」(野生のりんご)という種類と、アルコバサで生産されるりんごである。
前者はその名前の示すように、いかにも山や民家の庭先から取ってきたような小さな、青い、かぐわしい香りを放つ甘いりんごである。香りが強いので部屋に置くと天然の芳香剤になる。秋にスーパーに登場したと思ったら瞬く間に消えてしまう幻のりんごだ。小さいのに値段は他のりんごに比べ高い。この時期には清涼飲料水会社が季節限定のマッサン・ブラーヴァのネクターを販売する。これを飲むと他のりんごジュースが飲めなくなる。これも売り切れたらおしまいである。
右がマッサン・ブラーヴァ、左がアルコバサのりんご
先日アルコバサ産と銘打ったりんごをスーパーで見つけ買ってみた。一般に青果の生産地はポルトガル産とかスペイン産とか大雑把にしか書いていないが、これは町の名前が明記され、パッケージのシールには番号が記され、しかもりんご1個1個にアルコバサ産とシールが貼ってある。アルコバサがりんごで有名だとは知らなかったが、あのシャキッとした歯ごたえのある、食べ頃の時期を得た、日本のゴールデンと同じ味のりんごだった。そういえばポルトガル人がアルコバサのりんごは冷蔵してないから美味しいと言っていたのを小耳に挟んだが、そういう訳だったのか。
ポルトガルのりんごには日本の梨とそっくりのものがある。日本人が梨と思い込んで生で食べたら不味くて食べられなかったという話も良く聞く。これは焼きりんご用の品種で、芯をくり抜いてシナモンスティックを刺し、砂糖を詰めてオーブンで焼いたものがよくレストランのデザートに登場する。焼くと果肉がとろとろのピューレ状になり、スプーンですくって食べると美味しい。
りんごを使ったお菓子、アップルパイもポルトガルではポピュラーだ。カフェやパステラリアと呼ばれるお菓子屋には大抵1つはアップルパイがある。形は様々である。四角い平たいパイの上にカスタードクリームとスライスしたりんごを並べて焼いたもの、ケーキのように切り分けるもの、半月型の生地の中にりんごのジャムが入ったもの、1個の丸ごとのりんごにパイ皮をかぶせて焼いたもの、表面のりんごがあめ色に焦げたタルト・タタンなど、店によってご自慢のりんごのお菓子がある。
とある八百屋さんで売っているホームメイドのアップルパイ
ポルトガルのりんごのお菓子は大抵美味しいのに、生のりんごはなぜそうじゃないのだろうか。良いものはスペインに持っていかれるのか加工用になってしまうのか?謎である。
あるカフェのアップルパイが好きで、土曜の朝焼きたての温かいのを食べるのを楽しみにしてたんですが、だんだんりんごの量が減っていった
ので、その店に行くのはやめました。