ポルトガルのヴァレンタインデー
2008年 02月 15日
あるお菓子屋さんのヴァレンタイデー用ケーキ。すっぽりマジパンで覆われている。こんなものをもらっても困るかも
さてカトリックの国ポルトガルではこの日は「恋人の日」と呼ばれている。聖ヴァレンタイン?ああそう言えばそんな人がいたような気がするね、くらいの認識じゃないだろうか。2人のためのロマンチックなホテルやレストラン、ヴァレンタインデーの贈り物の特集を組んでいる雑誌もあるけど、それほど盛り上がりはない。町に出ても、特にチョコレートが山積みになっている訳でもなく、静かなものである。だいたい義理で好きでもない職場の上司や同僚にチョコを配るという話をすれば、大抵怪訝そうな顔をされる。恋人のいるポルトガル人は、もし気がつけば、この日に何かプレゼントするだろうが、別に女性から男性に贈るものとは限らないし、品物もチョコとは限らない。女性用のバッグや財布、香水を売っているところにはやはりハートのディスプレーが飾られ、下着屋には赤や黒のセクシーなランジェリーが並ぶが、それでも狂乱と言っていい位の日本のヴァレンタインデー商戦に比べるとささやかなもんである。
リスボン唯一のデパート、エル・コルテ・イングレスを覗いてみると、0階正面玄関のショーウィンドウには「2月14日はヴァレンタインデー」というPOPがガラスに貼り付けてはいるものの、特にその日のために買わなくてはいけないような気にさせるようなものはない。普通の春物の洋服を着たマネキンが並んでいるだけだ。その前の特設コーナーにはなぜかパソコンとプリンターが売られている。全く恋人とは関係ない。デパ地下にはいくらなんでも何かあるだろうと思い、地階に降りた。スーパーマーケットの入り口でようやくヴァレンタインデー用ハート型チョコを売っている小さなコーナーがあったが、お客さんは誰もいなかった。ふ~んこんなもんかと少々拍子抜けした。自分のために珍しいチョコを買おうと思っていたが、独り者にとっては全く購買意欲のそそらない貧弱な品揃えである。
スーパーの酒売り場はどうかしらと思って行くと、さすがに2月14日用のワインが試飲販売されていた。ピンクのラベルのその名も「SEXY」と言うアレンテージョワインである。私にとってSEXYという言葉とアレンテージョのイメージは全く結びつかないものである。これが甘ったるいポートワインだったらまだ共感できる。でもコルク林の下に豚や羊が群れる牧歌的な大田舎がセクシーね・・・べっとりとしたショッキングピンクに白抜きの英単語のラベル。あまりうまそうには思えない。赤とロゼがあり、試飲のマネキンさんによるとロゼは日本で賞を取ったということである。試しに両方飲んでみたが、2006年赤のほうは特にこれといった特徴は感じられなかった。賞をとったロゼは辛口で軽い感じなので、日本人の味覚に合ったのだろう。私はワインは好きだが、余程うまいか不味いかでないと微妙な違いは判らないのであまり信用しないでほしい。別の店で2005年の赤のSEXYハーフボトルを見つけたので買ってみた。ひょっとして14日に突然誰かが告白してくるとも限らない。そのときのためにまだ封は切らないでおこう。で、何事もなく14日が過ぎたら、近所の友達と話の種に飲むつもりである。
そういえば以前日本料理店でバイトしていた頃、やはりヴァレンタインデーはカップルの予約でいっぱいになったが、いつも来る常連さんではなく、初めて日本食を食べる若者が殆どであった。慣れない手つきで箸を握り、あるいはナイフとフォークで、醤油の付けすぎでバラバラに崩れかけた寿司を一生懸命食べるポルトガルの若者たち。この日のために奮発してポルトガル料理の値段の倍はする日本料理店に来た彼らは恋人のハートを掴んだのだろうか。