有効期限の迫る航空会社のマイルがホテルにも使える事に気が付いた。たまたまリスボン-マデイラ島往復40€という格安チケットも見つけたので、1泊2日の激安マデイラツアーを強行した。コロナを挟んで何年ぶりの旅行であろうか。マデイラに行くなら見所が多くゴージャスな5つ星ホテルから格安ペンションまで揃ったフンシャル市に宿泊するのが一般的だが、手持ちのマイルで宿泊でき、朝食付きで、空港に近く、行きたい場所にも近いという条件を満たしたホテルがマシコという小さな町にあった。
アソーレス諸島にハマって以来、火山地形に興味を持つようになり、花と果物の楽園マデイラもかつては荒々しい火山島だったことを思い出した。マデイラ島の最東部サン・ロレンソ岬(ポンタ・デ・サン・ロレンソ)は、太古の火山活動の痕跡が見られ、また絶景を誇るハイキングコースでもあるという。コースは約8kmでそれほど難しいコースではなさそうだ。1日目はソロハイキング、翌日はサン・ロレンソ岬のビュースポットも含まれる島東部のバスツアーという予定を立てた。
飛行機が着陸体制に入ると、竜がのたうち回る様にうねるサン・ロレンソ岬と、その先っぽから千切れた島嶼が目前に迫る。空港に降り立つと、岬の凸凹のシルエットが海面からそそり立つのが見える。何度かマデイラに来ているのに、なぜこの素晴らしい景色に気が付かなかったのか。
サン・ロレンソ岬は思いの外ハイカーが多く、道を逸れて遭難する心配は全くない。木が一本も無く視界の開けた自然保護区の岬のトイレは、コースのほぼ終わりにあるカフェにあるのみなので、ハイキングに行く前に用を済ませておくのは重要である。暑い日は熱中症対策に水分が必要であるが、飲物は岬のカフェの他にバス停の傍の移動販売車で買うことができる。コースは板を張った歩道や石畳の部分もあるが、ほとんど天然の石の道で起伏が非常に多いので、歩き易く履き慣れた靴は必須。滅多に使わない安い登山靴で歩いたら、左足の親指に豆ができた。
2時間ほど歩いて岬の先端の展望台のふもとの、鰯の家(カーザ・ド・サルディーニャ)という名のカフェで一休み。ここでは軽食やボートツアーも提供している。足に豆もできたし帰りは船で町に戻ろうかとも一瞬考えたが、歩いて浮いた船代で、何か美味いものを食べようと思い直した。帰りのバスをマシコの手前のカニサルという漁村で降りた。この村はかつて捕鯨が盛んだったが、現在はマグロで名高く、ここで水揚げされたマグロは日本にも輸出されている。そして私にとって重要なのは、カサガイがどこよりも安く食べられるということである。
何軒かのレストランの中に、眺めは良くないが、地元民がビールを飲んでいる店がある。そういう店はだいたい安い。案の定そこのカサガイが最も安かった(7.40€)ので、ここで遅い昼食をとることにした。カサガイは香草とニンニクで風味をつけたバターと共に専用のフライパンでグリルされ、レモンが添えられる。数年ぶりに食べたカサガイは今までで一番美味しく感じられた。これにマデイラ独特のカクテル、ポンシャがよく合う。マデイラの飲物には地ビールやマデイラワイン、果汁入り炭酸飲料など色々あるが、飲ん兵衛にはサトウキビの焼酎に蜂蜜とレモンまたはライムあるいはパッションフルーツの果汁を加えたポンシャが一推しである。
カサガイだけではお腹が膨れないので、マグロサンドも追加。あっさりしているのでポンシャの風味に負けてしまったが、それだけ新鮮なマグロを使っているということだろう。ポンシャに酔い、ホテルでたっぷりお湯を張ったバスタブに浸ると、足の豆や筋肉の痛みはだいぶ和らいだ。
翌日も、バスツアー中の昼食は我慢して終了後この店に再び食べに来た。カサガイとポンシャをスターターに、今度は奮発して本日の魚を頼んだ。ボディアンというマデイラの近海で獲れる赤い魚のグリルは、脂が程よくのった上品な白身でとても美味であった。飲物はマデイラ産のリンゴの発泡酒のシードルを頼んだが、正直なところ酢を水で薄めたような残念な味だった。たまたま不味いのに当たったのか、食べ物との相性が悪かったのか、機会があれば確かめたいと思う。再び40€の航空券が出てくることを期待しよう。また次回はガイドを頼んで、岬の地形や植物の話を聞きながら歩きたいものだ。