あったのだ。トマールのレストラン「シコ・エリアス」ではかぼちゃをくり抜いて中にうさぎのシチューを詰め、薪のオーブンでとろとろ煮込む、ユニークなメニューがある。このブログの過去の記事を見て、どうしてもこれを食べてみたいという人が現れた。しかしこの料理は並の胃袋では到底平らげることのできる量ではない。またうさぎの肉はあっさりしているので、これひとつでは飽きる可能性が大だ。大勢で2~3品頼んでシェアした方が断然楽しい。そこで他の人にも声をかけてもらい5人招集し、リスボンから車で約2時間のトマールに出かけた。
この日注文したのは、うさぎのシチューかぼちゃ詰めのほかに、ヤギのオーブン焼き、鴨料理「パト・コン・ブロア」の3品であった。肉料理ばかりなので、日本人には完食できまいと予想し、私は参加者にお持ち帰り用のタッパーを持参するよう注意を促した。
予約の入ったテーブルには既に何種類かのつまみが用意されている。さっき窯から出てきたばかりですと言いたげな黒い炭がちょっぴりついた丸いパン、クルミの入ったオレンジの香りの甘いパン、季節の味の焼き栗、ビアホールの定番つまみのウチワマメ。少量ではあるが、腹の膨れそうなものばかりである。ここでうっかり手を伸ばせば、後の料理が入るスペースが縮小されるのでここはぐっと我慢しなければならない。しかしメインは肉ばかりなので前菜にペティンガス(小イワシの南蛮漬け)を頼んだ。酢と油に漬けた小イワシを皿ごとオーブンに入れて焼いているのがこの店風だ。
春の菜の花畑のような爽やかな色合いのパト・コン・ブロアはトウモロコシパンを使った鴨料理である。表面はブロア(とうもろこしパンを顆粒状にしたもの)とクルミと松の実で覆われ、歯ごたえと香ばしさが楽しめる。その下にはジューシーなキャベツの葉と細く割いた鴨肉が隠れている。カリカリとした歯ざわりと木の実の香ばしさ、キャベツの甘みと鴨のコクがそれぞれの個性を主張しながらお互いを引き立てている。
いかにもポルトガルの伝統(田舎)料理といったヤギのオーブン焼き。オリーブオイルとにんにくの基本の味付けで色艶良く焼いた肉は濃厚だが臭みがない。肉の旨みを吸収したジャガイモと菜の花の炒め物は後を引く美味しさ。私は肉そのものよりも肉と一緒に焼いたジャガイモや菜っ葉の方が好きである。
そしてうさぎのシチュー。厨房からテーブルに運ばれるときは、丸ごとかぼちゃがキャセロールに乗っかってやってくる。そしてテーブルに置かれるとき、かぼちゃのヘタの部分をくり抜いた蓋をはずし、中身のシチューを客に見せるのだ。うさぎの肉を玉葱やマッシュルームと一緒に煮込んだシチューは淡白だが、秋の気配の感じられるしみじみとした味だ。あっさりしているが、何で味付けしているのか分らない微妙で複雑な香りや味がある。かぼちゃの移り香だろうか。
やはり五人で三品は多かった。お持ち帰り用タッパーに食べ切れない分を詰め、お土産とした。しかし、デザートは別腹である。かなりの量と甘さを警戒し、二種類のデザートを五人で分けることにした。トマールの郷土菓子でこの店のスペシャリティのファティア・デ・トマールとカスタードクリームの表面を焦がしたレイテ・クリームである。
卵の黄身をふわふわに泡立てて蒸し焼きしたスポンジをシロップに浸したトマール郷土菓子の方はあまりの甘さに一口で満足(脱落)した人が続出した。レイテ・クリームは甘さがしつこくなく好評だったが、量が多すぎた。
ポルトガルの田舎で食べる時は十分に体調を整え、空腹で望もう。食べ物が残ったら恥ずかしがらず、持ち帰りできますか?と聞いてみよう。地球環境のためにも。