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ポルトガルの食べ物、生活、観光情報


by caldoverde
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Save the キャベツ

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 日本にいたときはキャベツに品種があるなんて思いもよらなかったが、ポルトガルのスーパーや市場には常に何種類かのキャベツがある。中国キャベツ(コーヴェ・シネーザ)とはご存知白菜。しかしこちらではどのように白菜を調理するのかは知らない。日本で一般的に見られるキャベツはポルトガル風ポトフ「コジード・ア・ポルトゲーザ」でダイナミックに煮込まれる。肉やチョリッソの旨みをたっぷり吸った甘味のあるキャベツは本当に美味しい。

 心臓の形をした可愛い「コーヴェ・コラソン(ハートキャベツ)」と言う品種は、柔らかくて甘味があるので細かく切ってスープに使われることが多い。

 ミーニョ地方発祥でポルトガルを代表するスープとなっているカルド・ヴェルデは「コーヴェ・ガレガ(ガリシア・キャベツ)」と言われる菜っ葉が欠かせない。ベテラン主婦は濃い緑色の固い葉っぱをくるりと巻いて目にも留まらぬ速さでトトトトと千切りにし、中堅主婦はハンドルでぐるぐる回す道具で細く刻み、新米主婦は市場で既に刻まれビニール袋に入ったキャベツを買い、ズボラ主婦はスーパーでレンジでチンするだけのレトルトを買い、私はレストランでプロの作ったものを食べる。

ちりめんキャベツと生ソーセージ
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 葉が鮮やかな緑色で美しい縮緬模様の「コーヴェ・ロンバルド(サボイ・キャベツ、ちりめんキャベツ)」は煮崩れないので、ソーセージを巻いてポルトガル風ロールキャベツにする。この料理で使うソーセージは、香辛料をたっぷり使って固く干しあげたチョリッソではなく、生の挽肉を羊腸に詰めたフレッシュ・ソーセージ。挽肉を使うより簡単で美味しい。
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  ポルトガルの土産物屋でよく見るキャベツや果物の形をした食器を作る陶器の会社は、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したボルダロ・ピニェイロという陶芸家件漫画家が興した。アール・ヌーヴォーの影響を受け自然からのモチーフをふんだんに使った、リアリズムと装飾性の融合したユニークな陶器やアズレージョなどをたくさん生産してきた。比較的手ごろな値段のテーブルウェアや、ポルトガルの庶民を現したユーモラスな人形や、動物や植物をリアルにかたどった置物などを作る本社は、古い温泉病院のあるカルダス・ダ・ライニャ(王妃の温泉)という町にある。この町の名物の焼き物としては、ボルダロ・ピニェイロの製品のほかに、私のような上品な女性が口に出すのも憚るような仕掛けのあるマグカップもまた有名である。日本にも温泉地にはとんでもないみやげ物があるが、ポルトガルも然り。

 ところが昨今の世界を覆う不況の影響で、この歴史ある陶器メーカーが経営危機に瀕しているという。ウェッジウッドやローゼンタールなど世界的に有名な高級ブランドだけでなく、ポルトガルにもその余波が押し寄せてきたのである。この愛すべき陶器が生産されなくなるのは残念だ。何とか持ち直して欲しい。
キモ可愛いボルダロ・ピニェイロの陶器
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# by caldoverde | 2009-01-20 08:35 | 野菜・果物・キノコ | Comments(8)

リスボン、シネマの都

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 ポルトガルではクリスマスと元日はお店はどこも休み。ポルトガル人の生命維持装置であるカフェでさえ、この日に開いているところを探すのは困難を極める。街は閑散としている。唯一営業しているのは映画館だ。

 ポルトガルは比較的映画が安い。ショッピングセンターには映画館があり、5ユーロから6ユーロで最新の映画が見られる。また、シネマテカという映画の博物館では非常に安い料金で珍しい映画や歴史に残る名作を見ることができる。月ごとにテーマが設けられ、それに関連する映画が日替わりで上映される。日本の監督の特集も時々行われる。私はここで初めて小津安二郎や黒澤明の映画を見た。リベルダーデ大通りからちょっと入ったところにある、瀟洒なお屋敷を改装した建物で、素晴らしいアラブ風の吹き抜けと、古い映画のポスターが壁に飾られたお洒落なカフェがある。

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 残念なことにリスボンの名画座はこの10年間の間に次々と姿を消してしまい、皆同じようなハリウッド娯楽映画を上映するシネコンばかりになってしまった。館主がこだわりを持って選んだ良質の作品を見せていた、古くて汚いが格安の入場料の映画館はほぼ絶滅した。

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 街には映画の黄金期に作られた歴史的な映画館のいくつかが、他の用途に転用されたり、廃墟となって残されている。エストレーラ大聖堂から市電が坂を上っていく途中、板塀に囲まれ、窓をレンガで塞がれたPARISという昔の映画館の残骸がある。落書きだらけで朽ち果てて今にも倒壊しそうだ。こんな状態になってもう何十年も経っている。なぜ市は放置しているのだろう。1930年代のアールデコ様式のこの建物は、市の文化財のひとつとして捉えられているらしく何度も保存改修の話が出ているが、未だ手付かずのままである。かなりいい場所にあるので、マンションを建てれば高く売れるはずなのだが。こんなになるまで取り壊しが行われないのは、法律や権利に関する問題のほかに、リスボン市民のこの古い映画館に対する愛着がよほど深いのだろう。おやつや弁当を持ち込み家族連れでやって来る庶民、スーツを着た男性に手を取られて自家用車やタクシーから降りる毛皮の女性、市電の外側に掴まってただ乗りし他の観客に紛れ込んでただ見するいたずら小僧たちで賑わい、まさに「ニューシネマ・パラダイス」の世界だったに違いない。ヴィム・ベンダースの映画「リスボン・ストーリー」にもこの映画館が登場する。



音楽はマドレデウス。日本の車のCMソングに使われたのが、この「海と旋律」




 このパリ座の廃墟の向かいにカフェがある。一日に一度はバスの窓から見たり、近くを通りかかったりするのだが、特に入る気の起こらない超平凡なカフェだった。ところが昨年改装し、シックでノスタルジックなお店に変身した。看板は映画の一場面らしき男女の写真。道に面したガラス窓には、古いブリキの菓子箱。店内には映画のスチール写真が飾られ、内装は木を使い(普通は新建材やプラスチック)いかにも古い映画に出てくるバーのようである。シネマが再建され、その前を市電が走るのを眺めながらコーヒーを飲むのはどんなに素敵だろう。リスボンの名物カフェになれるのだが。ところがせっかく改装したこのカフェ、クリスマス休暇を延長中で、何の張り紙もなく閉まったままである。誰かシネマ・パリスとカフェ・ルア・ノヴァを救ってくれないだろうか。

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直径15cmはある特大クッキーはもう食べられないのだろうか。

# by caldoverde | 2009-01-07 08:50 | カルチャー | Comments(21)

チョコレートの王子様

 リスボンの情報誌に最近変わったチョコレート屋が開店したという記事が掲載された。ゴディバのような世界中どこでも買える高級チョコレートではなくて、超希少なサントメ・プリンシベ産のチョコなのだそうだ。サントメとはアフリカ大陸の大西洋側の豆粒のような小さな島国である。サントメ(聖トメ)島とプリンシペ(王子)島という主な2つの島からなり、旧ポルトガル領で世界の最貧国のひとつである。主な産業はカカオ。このサントメ産のカカオだけを使ったこだわりの店が、プリンシペ・レアル(皇太子)公園のそばの坂道にオープンした。

このあたりは古いきれいな建物と骨董屋が多い
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 1坪ちょっとくらいの小さな店だが、入り口に小さなラグビーボールのようなカカオの実が飾ってあるのですぐ判る。ガラスケースの中のチョコレートは何か工業材料のような、平べったくてでこぼこしたタブレット状になっている。手作りと言った場合、熟練の職人技を駆使したものか、または素人が作った素朴だが味わいのあるものと言う意味合いで使われることが多いだろうが、ここまで来ると、原始的な道具とメソッドを使った、ほとんど考古学的に再現されたチョコレートといった趣きである。

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 オレンジ入り、生姜入り、カカオ%かは忘れたがとにかく純度の高いものと何種類かある。いずれもミルクは使っていない。真のチョコレート好きのためのチョコレートだ。店ではホットチョコレートも飲める。私はスペイン式のドロッとしたココアが大好きなのだがあの甘さが胃に重い。この店のは粘りが少なくさらっとしているが、深い香りとコクがある。昔は薬としても用いられていたというチョコレートの原点のようなピュアなココアだ。体がぽかぽか温まり、胃も元気になるような気がした。

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 1種類だけ中にラムレーズン入りの高級一粒チョコレートのようなものがある。そのレーズンはカカオの実の中の白い部分を発酵させたブランデーに漬けたもので、そのブランデーは古い資料を基に再現した貴重なものだそうだ。非常に美味しく文字通り有難いものである。

理科の実験室のようなそっけない店内
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 店の美しいお姉さんはそれぞれの商品に関してとても熱心に説明してくれるので、ココアを飲んだだけで帰る勇気がなくなり、生姜とオレンジのチョコを各1枚、ラムレーズンのチョコを3個買うことにした。重さを量りココアと合計した金額は、有名な高級チョコレートに匹敵するお値段だった。そのときは予定外の散財をしてしまったと後悔したのだが、1週間ほど経てこの文を書いているうち、サントメチョコの少し粉っぽい舌触り、ほろ苦さ、そして高貴な香りが口の中の感触として突如蘇った。今まで食べたブランドもんのチョコの味、あれはカカオではなく、クリームやナッツやフルーツや洋酒の味だったのだ。

右端の85番がチョコの店。典型的なリスボンの町並み。

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 はるか遠いアフリカの島国からやってきた混ぜ物のない本物のチョコレート。サントメ・プリンシペのチョコは正にチョコのプリンシペ、王子様である。私のような倹約中の食いしんぼだけでなく、世界中のお金持ちグルメから注目され、サントメ・プリンシペ民主共和国の国民がポルトガルに出稼ぎに来なくても十分生活できるようになるといいのだが。

# by caldoverde | 2008-12-23 03:01 | お菓子・カフェ | Comments(10)
アマリア・ロドリゲスとカルド・ヴェルデ_a0103335_8345670.jpg

 不況だ不況だと言われているが、アパートの下のスーパーはいつものように人で一杯だし、デパートやショッピングセンターはクリスマスプレゼントを買う人でごった返しているし、とりあえず、今日も世の中は普通に動いている。でもやっぱり景気悪いのかなと感じるのは、以前あった店が他のオーナーに変わっていたり、別の業種になっていたりするのを見るときである。最近も仕事でお客さんとよく行っていたバイロ・アルトのファドレストランが閉店という知らせを聞いた。

 リスボンの夜の観光といえばやはりファドを置いて他にない。スペインにフラメンコ、イタリアにカンツォーネ、ブラジルにサンバ、そしてポルトガルにファド。ファドレストランは食事をしながらショウを楽しめる。レストランは8時ごろから開くが、ショウが始まるのはだいたい9時から9時半の間である。旅行会社の主催するツアーに参加すれば、ちょうど食事がひと段落ついたころショウが始まる。たまにファドを聴きに来たら、踊りが出てきたとおっしゃるお客様がいるが、ファドとともに民族舞踊をプログラムに入れている店も多い。私は正直言ってファドだけだと飽きるし、暗くなるので、明るいフォークダンスで気分転換できるほうが好きだ。リスボンに来たなら、ファドの入門編として食事もドリンクも、歌も踊りもあるファド・ディナーショウに参加してみてはいかが。日本人客の多い店なら、「暗いはしけ」が登場する確率も高くなる。ただし、いつも必ず聞けるわけではない。なぜなら・・・



 日本ではアマリア・ロドリゲスの歌であまりにも有名な「暗いはしけ」は、元々はブラジルの歌だ。メロディーもリズムもファドらしくない。しかし、アマリア・ロドリゲスはポルトガルのものにしてしまった。いや、アマリアのものにしてしまったというべきか。朗々と響き渡る美声、感情移入しすぎて時には歌いながら涙を流すほど豊かな表現力は比類がない。この曲を歌うなら、未だに人々の記憶に残るあの名唱と比較されるのを覚悟しなければならない。また私のような素人が聴いてもかなり難しい曲だとわかる。ファド歌手の誰もが「暗いはしけ」をレパートリーにしている訳ではない。

 場末の酒場で人生に疲れた女が酒とタバコで潰したしゃがれ声を張り上げるイメージのあるファドを、芸術にまで昇華させた偉大な歌手は1999年に亡くなった。アマリアのお墓はアルファマの泥棒市の立つサンタ・エングラシア教会にある。件の閉店となったファドレストランでもアマリアは歌っていたことがあったそうで、店内には彼女の最も美しい時期のポートレートのアズレージョがあった。

 12月初めからアマリア・ロドリゲスの伝記映画がポルトガル全国で上映されている。アマリアの経歴やポルトガルの時代背景を知らないとややわかりにくく、評論家の意見は厳しいが、アマリアを演じた無名の女優さんは口パクながら迫真の演技である。日本でも公開されるといいのだが。


 食べ物の登場するファドというと、私はほんの数曲しか知らないのでこれしか思いつかない。
「ポルトガルの家」Casa Portuguesa という曲で、ポルトガルの家には貧しさの中に喜びがある、愛とパンとワインとカルド・ヴェルデさえあれば・・・と歌っている。不景気だろうが、師走の寒風が吹こうが、この一汁一菜?があれば体もココロも懐も温まる。愛があれば尚可である。
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# by caldoverde | 2008-12-13 08:58 | カルチャー | Comments(7)

マテ貝のリゾット

 近所の市場を覗いたら、丸々太った鯖が目に入り、鯖の味噌煮でも作ろうかと考えた。おばさんが鯖の重さを量り頭や内臓を取ってくれる間、不意に鯖の並んでいるそばにマテ貝があるのに気が付いた。最初から見えていれば鯖など買わず(1匹4ユーロ以上した)即座にマテ貝を買っていたのだが。子供の頃から眼鏡をかけている私は視界が異常に狭く、すぐ目の前にいる知人に気がつかずに、挨拶もせず通り過ぎるといった失敗は数知れない。
 長さ約10cmのマテ貝が20本ほどゴムで束ねられて、白いべろを出している。まだ生きている。デパートでマテ貝を見たが真空パックで包装された死んだもので、値段も高かった。この近所の市場でマテ貝を見るのは、というか貝類が売られているのはめったにない。値段は8ユーロ。かなりの予算オーバーとなるが、この機を逃したら自分の人生でマテ貝を食べるチャンスはもう二度と巡って来ないかもと思うと、既にさばかれ返品不可能となった鯖とともにマテ貝も買ってしまった。
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 私はマテ貝を日本で食べたことがない。初めて食べたのはアルガルヴェのどこかでマテ貝のリゾットを食べたときだった。どの町の何と言うレストランか思い出す手がかりは全く失ってしまったが、上品なあの味は忘れがたい。お米のクリーミーな舌触り、貝の歯ごたえ、日本料理にも通じる旨みのあるスープの味、そしてかすかなコリアンダーの香り。私が食べたポルトガルの米料理のベスト3は、漁師町のシーフードリゾット、北部の鴨の炊き込みご飯、そしてこの南部のマテ貝のリゾットである。もう一度食べたいものだと常々思っていたが、リスボンでこの料理をメニューに入れているレストランを見たことがない。となるとアルガルヴェに行くか自分で作るしかない。
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 インターネットでマテ貝のリゾット(arroz de lingueirão)のレシピを調べると色んな作り方があるが、私がたった一度食べてとても美味かったのは、トマトを使わない白いシンプルなリゾットだった。それに一番近いと思われるレシピを参照し、幻の味の再現にチャレンジした。

1、マテ貝をゆでる。
 砂出しをしたマテ貝を洗い、水を張った鍋に入れて火にかけゆでる。ゆで汁は米を煮るためにとっておく。
2、玉ねぎ、ニンニクをみじん切りにしてオリーブオイルで炒める。
 リゾットに限らずほとんどのポルトガル料理の基本中の基本で欠かせないもの。透明になる まで炒める。香りづけに月桂樹の葉も加える。
3、殻から出したマテ貝を加えて炒め、貝のゆで汁、白ワインを加え、米も入れて煮る。割合は米1に対し水分3くらい。米の硬さはお好みで。
4、塩で味を調え、仕上げにコリアンダーの葉を散らす。

 店で食べたリゾットの貝は小さく切られていたが、家で作るときは気前良く長いまま使う。ゆでると殻よりも大きくなって食べ応えがある。日本では殻つきのまま焼いたり、天ぷらやヌタにしたり色々な食べ方があるようだが、リゾットにして食べるのは、多分ポルトガルのアルガルヴェ地方だけだろう。自分で作ったマテ貝のリゾットはプロの味には及ばないが、貝をふんだんに使って贅沢感が味わえた。
オリーブオイルとニンニクで炒めただけでも美味い。
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 アルガルヴェには他にも独特の魚介料理がある。有名なカタプラーナはリスボンでも食べられるが、ウツボのフライのサンドイッチや、ツブ貝と豆の煮物などは現地に行かないと味わえない。ポルトガルで一番美味しいイワシはアルガルベ産だそうだ。アルガルヴェでは観光客向けのピザやハンバーガーなど無視して、地元の漁師を捕まえてどこの店が美味いか聞いてみよう。
# by caldoverde | 2008-11-28 08:31 | シーフード | Comments(7)